中国では紀元前から霊薬として栽培されていた、菊。日本には律令期に他の文物とともにもたらされ、平安時代の宮廷ではすでに花の宴が流行していました。
当初は支配者層に愛でられていた菊は、近世中頃以降になると大衆化。江戸時代には大きなブームにもなっています。
くらしの植物苑では、古典菊を1999年から収集・展示。古典菊を中心としたこの時期の企画も恒例です。今年は歴博オリジナル約20品種を含む、計136品種を展示します。
「くらしの植物苑」入口から東屋の脇に並べられているのは「嵯峨菊」。嵯峨天皇(786-842)が好み、離宮(現在の大覚寺)の大沢池に植えたのが起源と伝わります。明治になるまで大覚寺のみで栽培され、門外不出でした。
花は花弁が細く、刷毛(はけ)のように直立。上段3花、中段5花、下段7花の「七五三作り」で仕立てます。
大覚寺の菊花会では、回廊の下に並べた菊を上から鑑賞。本展でも東屋内に段が設けられ「殿上からの嵯峨菊」をお楽しみいただけます。
嵯峨菊江戸時代の初頭から栽培されはじめた「江戸菊」。他の菊ではみられない花芸(はなげい)が特徴です。
開き始めてから10日で開き、続く10日で花弁がねじれながら内側に抱えられ、最後の10日は渦を巻いたような姿に。この変化を「狂い」と呼びます。
江戸菊「肥後菊」は宝暦年間(1751~1763)に肥後の細川重賢公が文化政策として始め、240年の歴史を誇ります。
肥後菊は、栽培法も鑑賞法も独特。本展では鉢植えですが、正式には花壇に直接植えます。三間花壇の場合は、後列に大輪10本、中列に中輪9本、前列は小輪10本。平弁と管弁(ともに花弁のかたち)を交互に、紅・白・黄を斜めに通して配列と、細かなルールが決まっています。
展示されている菊の中では、最も遅い時期に開花する肥後菊。肥後菊のみは、12月7日(日)まで展示されます。
肥後菊東屋内では「菊細工のはなし」をテーマにしたパネル展示も開催中。11月22日(土)は苗の有償配布も行われますが、いつも開苑直後に完売するほど人気ですので、ご注意ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年11月5日 ]