今年の11月3日で開館20周年を迎える千葉市美術館。館蔵品は国内有数といわれる浮世絵の充実ぶりが良く知られていますが、実は戦後の現代美術までかなり幅広くラインナップしています。
千葉市美術館にはいわゆる「常設展」コーナーが無く、企画展に合わせた所蔵作品展でコレクションをテーマ展示していましたが、20周年を機に館全体を所蔵作品だけで構成。約9,000点件の所蔵作品の中から、歴代3館長が中心になってセレクトした162点(会期中通して)を紹介します。
会場入口から会場は近世~近代の日本絵画から。俵屋宗達からはじまり伊藤若冲、曾我蕭白、円山応挙、長澤芦雪と、日本美術ファンなら身悶えしそうな構成です。ここでは河鍋暁斎の《左甚五郎と京人形図》をご紹介しましょう(展示は4/26まで)。
浮世絵師としても知られる暁斎ですが肉筆も優品が多く、こちらもそのひとつ。歌舞伎の演目としても知られる「京人形」は、名工・左甚五郎が廓で見初めた太夫そっくりの京人形を作ったところ、魂が入って動き出すというストーリー。日本版の
ピグマリオンといえます。
極めて小さな部分まで描く技術は、暁斎の真骨頂。この作品も着物の柄はもとより、太夫が持った団扇に描かれた人物の表情まで描かれています。
「近世~近代の日本絵画」と、河鍋暁斎《左甚五郎と京人形図》近世~近代の版画と版本には、定評のある浮世絵がずらり。菱川師宣、鈴木春信、鳥居清長、喜多川歌麿、葛飾北斎、歌川広重、歌川国芳ら江戸時代の人気絵師のほか、月岡芳年、橋口五葉、川瀬巴水、棟方志功と、明治~昭和の木版画家も並びます。
伊藤若冲の《乗興舟》は、出展されているかどうか、問い合わせも多い人気作品(展示は4/26まで)。色鮮やかな花鳥画(特に鶏の絵)で知られる若冲ですが、それとは全く異なる墨の濃淡だけの版画です。
通常の木版画と逆に描線部分を彫っているため、黒の面積が多い作品。白から黒への美しいグラデーションが印象的ですが、どう摺ればこのようになるのか分かっていません。
なお、本展での展示は前半部分のみですが、後半は9月8日~10月18日に開催される「開館20周年記念 唐画もん ─ 武禅に閬苑、若冲も」展で紹介されます。
「近世~近代の版画と版本」と、伊藤若冲《乗興舟》階下に降りると、現代美術がずらり。中西夏之、工藤哲巳、高松次郎ら、近年大規模な回顧展が開かれている作家の作品が続きます。
ちなみに草間彌生、篠原有司男、河原温、杉本博司、須田悦弘らの作品は、取材時は展示される前。本展は大きく前期・後期に分かれていますが、細かくは4期になっているため、かなり頻繁に展示替えがあります。公式サイトに
展示替えリストが出ていますので、ご確認の上お出かけ下さい。
「現代美術」展覧会にあわせて刊行されたのが「千葉市美術館 所蔵作品100選」。厳選された100作品の詳細解説はもちろん、巻末の3館長による鼎談が読み応えたっぷり。現在は私立美術館で館長を務めるお二人(辻惟雄氏はMIHO MUSEUM、小林忠氏は岡田美術館)の経験も踏まえ、美術館運営の現状から課題まで、ざっくばらんにお話しいただいています。
館の公式サイトでも販売中、1,500円です。
日本美術史界の各分野の重鎮が、開館以来続けて館長を務めているという公立美術館は、かなりのレアケース(日本唯一かも)。京都美術工芸大学学長の河野元昭氏による司会のもと、歴代3館長が一堂に揃う超豪華なシンポジウムも、4月25日(土)に千葉市民会館で開催されます(しかも聴講無料)。詳細は
館の公式サイトでご確認ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年4月13日 ]■歴代館長が選ぶ 所蔵名品展 に関するツイート