もともと中国由来の絵画を指していた「唐画(からえ)」。後にその意味合いは広がり、蘭画なども含めて新しい様式の絵画を広く含んだ言葉になりました。
唐画を描く画家は唐画師(からえし)ですが、本展で親しみを込めてつけられた名前が「唐画もん(からえもん)」。当時の中国絵画は最新の技術だったので、新しいテクノロジーで人々を喜ばせる、という意味では、例のネコ型ロボットと共通点があるかもしれません(かなり強引ですが…)。
会場はまず、墨江武禅の師である浮世絵師の月岡雪鼎と、その弟子の作品紹介から。瓜実顔に切れ長の目の美人像で、肉筆浮世絵の優品が多い月岡雪鼎。多くの弟子を育て、大坂画壇に一大勢力を築きました。
会場入口から雪鼎の弟子は師にならって美人画の名手が多く、武禅も当初は美人画を描いていましたが、次第に中国絵画などの影響を受けた山水画が創作の中心に。淡彩の山水を数多く描きましたが、中には色鮮やかな作例も見られます。
光や陰影を意識した表現を得意とした武禅。窓の灯がうっすらと水面に映る様子など、繊細な描写は武禅作品の見どころです。
実は武禅は、絵師になる前は船頭を束ねる親方であったともいわれています。時おり描かれる舟の描写には、どことなくこだわりも感じられます。
墨江武禅の作品続いて、林ろう苑(「ろう」は門構えに良)。こちらも、ろう苑の師である福原五岳(池大雅の弟子)や、同門の画家による作品から、ろう苑自身が手掛けた作品紹介へ、という流れです。
幼い頃から絵を好んでいたと伝わる、ろう苑。その作品はかなり幅広く、師の五岳に近い人物画や山水画はもちろん、豪放な水墨画の鷲、細部までみっちりと表現した孔雀と、花鳥画も硬軟自在です。
ちょっと珍しいのが、鉢植えの蘭を描いた作品。枯れつつある葉先や、土の上の苔まで、極めてリアルに描き込んでいます。
林ろう苑の作品階下の展示室では、武禅やろう苑と同時代の大坂や京都で活躍した画家が紹介されています。
人気の伊藤若冲も、この流れで見るとまさに「唐画もん」。色鮮やかで精密な描写は、林ろう苑と同様に中国人画家・沈南蘋からの影響が顕著。墨のにじみを活かした大胆な描写は、林ろう苑の作品との強い類似性も感じます。
展覧会では、
千葉市美術館所蔵の若冲作品で人気が高い《乗興舟》も出展中。今年4~6月に開催された「
歴代館長が選ぶ 所蔵名品展」でも展示されましたが、今回は後半部分です。黒い部分の面積が多く、ネガフィルムのような印象を受ける不思議な版画です。
伊藤若冲《乗興舟》などこのフロアには、他にも多くの「唐画もん」が。復古的な作品を残した曾我蕭白も、写実的な画風を確立した円山応挙も、中国絵画からはさまざまな面で影響を受けています。
長いケースで全巻が展示されているのは、耳鳥斎(にちょうさい)による《地獄図巻》。「悪行を断つために地獄の恐ろしさを描く」とありますが、その内容は、容器から押し出されそうな「ところてんやの地獄」、手足を引き伸ばされる「あめやの地獄」など実にユニークです。
耳鳥斎《地獄図巻》など千葉市美術館では「田中一村と東山魁夷 ─ 千葉ゆかりの画家たち、それぞれの道 ─ 」も同時開催中。一村と魁夷の作品を中心に千葉にかかわりの深い画家たちの作品約50点が紹介されています。
「唐画もん ─ 武禅にろう苑、若冲も」は10月18日(日)まで。前後期で展示替えがありますので、ご注意ください。千葉展の後は
大阪歴史博物館に巡回します(10/31~12/13)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年9月10日 ]