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    レポート
    唐画もん ─ 武禅にろう苑、若冲も
    千葉市美術館 | 千葉県
    個性豊かな大坂の異才
    江戸時代中期の大坂。絵画の世界では狩野派的な表現が大勢を占める中で、新たに中国由来の画題や表現を用いた絵師が人気を博していました。その中で、今では知られざる存在となった墨江武禅(すみのえぶぜん 1734~1806)と林ろう苑(はやしろうえん 生没年不詳、1770~80年頃活動)を中心に紹介する展覧会が、千葉市美術館で開催中です。
    (左から)墨江武禅《秋山残霧図》 / 墨江武禅《青緑山水渓流游回図》 / 墨江武禅《山水図》
    (左から)月岡雪鼎《花美人図》 / 月岡雪鼎《三美人図》 / 月岡雪斎《浮世人物図》
    (左から)墨江武禅《山水図》 / 墨江武禅《初夏晩意図》 / 墨江武禅《山水図》
    (左から)林ろう苑《鯉図》 / 林ろう苑《花鳥図》 / 林ろう苑《得双寿図》 / 林ろう苑《芭蕉九官鳥図》
    (左から)林ろう苑筆・慈雲飲光賛《鹿図》 / 林ろう苑《大鷲図》 / 林ろう苑《睡起未顔粧之図》 / 林ろう苑《円窓三美人図》
    林ろう苑《舜禹図》
    伊藤若冲《乗興舟》
    (左から)伊藤若冲《海老図》 / 伊藤若冲筆・龍草盧賛《柿猿図》 / 伊藤若冲《鵞鳥図》
    耳鳥斎《地獄図巻》
    もともと中国由来の絵画を指していた「唐画(からえ)」。後にその意味合いは広がり、蘭画なども含めて新しい様式の絵画を広く含んだ言葉になりました。

    唐画を描く画家は唐画師(からえし)ですが、本展で親しみを込めてつけられた名前が「唐画もん(からえもん)」。当時の中国絵画は最新の技術だったので、新しいテクノロジーで人々を喜ばせる、という意味では、例のネコ型ロボットと共通点があるかもしれません(かなり強引ですが…)。

    会場はまず、墨江武禅の師である浮世絵師の月岡雪鼎と、その弟子の作品紹介から。瓜実顔に切れ長の目の美人像で、肉筆浮世絵の優品が多い月岡雪鼎。多くの弟子を育て、大坂画壇に一大勢力を築きました。


    会場入口から

    雪鼎の弟子は師にならって美人画の名手が多く、武禅も当初は美人画を描いていましたが、次第に中国絵画などの影響を受けた山水画が創作の中心に。淡彩の山水を数多く描きましたが、中には色鮮やかな作例も見られます。

    光や陰影を意識した表現を得意とした武禅。窓の灯がうっすらと水面に映る様子など、繊細な描写は武禅作品の見どころです。

    実は武禅は、絵師になる前は船頭を束ねる親方であったともいわれています。時おり描かれる舟の描写には、どことなくこだわりも感じられます。


    墨江武禅の作品

    続いて、林ろう苑(「ろう」は門構えに良)。こちらも、ろう苑の師である福原五岳(池大雅の弟子)や、同門の画家による作品から、ろう苑自身が手掛けた作品紹介へ、という流れです。

    幼い頃から絵を好んでいたと伝わる、ろう苑。その作品はかなり幅広く、師の五岳に近い人物画や山水画はもちろん、豪放な水墨画の鷲、細部までみっちりと表現した孔雀と、花鳥画も硬軟自在です。

    ちょっと珍しいのが、鉢植えの蘭を描いた作品。枯れつつある葉先や、土の上の苔まで、極めてリアルに描き込んでいます。


    林ろう苑の作品

    階下の展示室では、武禅やろう苑と同時代の大坂や京都で活躍した画家が紹介されています。

    人気の伊藤若冲も、この流れで見るとまさに「唐画もん」。色鮮やかで精密な描写は、林ろう苑と同様に中国人画家・沈南蘋からの影響が顕著。墨のにじみを活かした大胆な描写は、林ろう苑の作品との強い類似性も感じます。

    展覧会では、千葉市美術館所蔵の若冲作品で人気が高い《乗興舟》も出展中。今年4~6月に開催された「歴代館長が選ぶ 所蔵名品展」でも展示されましたが、今回は後半部分です。黒い部分の面積が多く、ネガフィルムのような印象を受ける不思議な版画です。


    伊藤若冲《乗興舟》など

    このフロアには、他にも多くの「唐画もん」が。復古的な作品を残した曾我蕭白も、写実的な画風を確立した円山応挙も、中国絵画からはさまざまな面で影響を受けています。

    長いケースで全巻が展示されているのは、耳鳥斎(にちょうさい)による《地獄図巻》。「悪行を断つために地獄の恐ろしさを描く」とありますが、その内容は、容器から押し出されそうな「ところてんやの地獄」、手足を引き伸ばされる「あめやの地獄」など実にユニークです。


    耳鳥斎《地獄図巻》など

    千葉市美術館では「田中一村と東山魁夷 ─ 千葉ゆかりの画家たち、それぞれの道 ─ 」も同時開催中。一村と魁夷の作品を中心に千葉にかかわりの深い画家たちの作品約50点が紹介されています。

    「唐画もん ─ 武禅にろう苑、若冲も」は10月18日(日)まで。前後期で展示替えがありますので、ご注意ください。千葉展の後は大阪歴史博物館に巡回します(10/31~12/13)。
    [ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年9月10日 ]

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    ¥ 1,234

     
    会場
    会期
    2015年9月8日(火)~10月18日(日)
    会期終了
    開館時間
    午前10時-午後6時 (入場は午後5時30分まで)
    金曜日・土曜日は午後8時まで (入場は午後7時30分まで)
    休館日
    9月28日(月)、10月5日(月)
    住所
    千葉県千葉市中央区中央3-10-8
    電話 043-221-2311
    公式サイト http://www.ccma-net.jp/
    料金
    一般 1,000円(800円)/大学生 700円(500円)/小・中学生、高校生無料
    ※( )内は前売券、団体20名以上の料金、および市内在住65歳以上の方の料金
    ※障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名は無料
    展覧会詳細 唐画もん ─ 武禅にろう苑、若冲も 詳細情報
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