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    レポート
    没後100年 五姓田義松 ─ 最後の天才 ─
    神奈川県立歴史博物館 | 神奈川県
    膨大な資料で迫る、天才の実像
    明治初頭からの洋画家といえば「鮭」の高橋由一が有名ですが、五姓田義松(ごせだよしまつ:1855-1915)の名を出せる人は多くないと思います。驚くべき速さで技術を身に着け、パリのサロンでは日本人初の入選、まさに正真正銘の天才でした。30年ぶりとなる大回顧展が、神奈川県立歴史博物館で開催中です。
    洋画が並ぶコーナー
    (右下)《陽明門》1909年
    (左から)《園田御令嬢肖像》1902年 / 《農夫と馬》明治30年代 / 《修善寺風景》1890年
    (左から)《婦人像》1871年頃 / 《婦人像》1871年
    (左から)《原夫人あさ子肖像》1902年 / 《原敬肖像(平服)》1902年 / 《原敬肖像(大礼服)》1902年
    (左から)《銭湯》制作年代不詳 / 《操芝居》1883年
    (左から)《五姓田一家之図》1872年頃 / 《老母図》1875年
    《六面相》1873年頃
    紙の両面に描かれたスケッチ類
    五姓田義松は江戸生まれ。1865年に、横浜居留地にいた英国人報道画家のチャールズ・ワーグマンに入門します。この時わずか10歳、ちなみに高橋由一は翌年に37歳でワーグマンに入門しています。

    義松が学んだ「洋画」は、油彩画だけではありません。初歩の鉛筆画、次の段階の水彩画も、当時の日本には無かった技術であり、いずれも「洋画」。義松は鉛筆画や水彩画でも対象を的確に捉えており、その作品からは並外れた技術を垣間見る事ができます。


    書簡や家計簿などの史料も揃え、義松の実像に迫ります。作品は鉛筆画・水彩画から。初公開作品も含まれ、点数も膨大です

    師のワーグマンは油彩が得意ではありませんでしたが、義松は1871(明治4)年頃までに油彩画の技術を身に着けて独立。16歳にして横浜居留地の西洋人達に絵を売り、稼ぎを得るようになります。

    会場で紹介されている油彩は、年代順に作品が並ぶコーナーが見もの。義松は油彩を始めた頃から精度の高い作品を描いていますが、1880(明治13)からのフランス滞在で、さらにテクニックに磨きがかかります。


    洋画のコーナーには、原敬の肖像も。義松と原敬は一歳違いで、パリ時代からの友人だったと考えられています

    義松は家族との絆が強く、家族を描いた作品も数多く残しています。父は武士であり、画家でもあった五姓田芳柳。母の勢子は絵画の販売記録をまとめるなど、義松の生活を支えました。年子の妹・渡辺幽香も画家で、シカゴ万博に作品をするなど活躍しました。

    注目は、独立ケースで展示されている2点の油彩。母や妹、弟子たちが揃った《五姓田一家之図》は、1872(明治5)年頃の作品。左端でスケッチをしているのは幽香です。亡くなる直前の母を描いた《老母図》は、1875(明治8)年の作品。明治ひと桁に描かれた日本の洋画は極めて珍しく(高橋由一の「鮭」も明治10年頃の作品です)、日本美術史の上でも重要な作品といえます。


    動画最後に《五姓田一家之図》と《老母図》

    会場最後の《自画像》は、義松が21歳の時の作品。義松はこの作品と《阿部川富士図》を第1回内国勧業博覧会に出品し、鳳紋賞を受賞。頂点を極めた自信は、描かれた表情からも見て取れます。

    一方の《六面相》は鉛筆スケッチの自画像。表情のユニークさが印象に残りますが、妙な顔つきでも筋肉の動きを着実にとらえる描写力は、まさに天才的。嬉々として鉛筆を走らせる姿が目に浮かびます。


    紙が貴重だったこの時代。両面に描かれたスケッチ類も紹介されています

    渡仏翌年に日本人として初めてサロンで入選した義松。その実力が世界レベルである事を証明しましたが、時代はすでに外光派が主流になりつつありました。

    日本の洋画壇は、黒田清輝が中心に。新しい表現が求められる時代において、帰国後の義松が第一線に立つことはありませんでした。ただ、それでも絵の道だけを進み続けた義松。土産として求められた「横浜絵」を描きながら、1915(大正4)年に60歳で死去するまで、画家としての生涯を貫いています。
    [ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年9月24日 ]

    日本美術史 JAPANESE ART HISTORY日本美術史 JAPANESE ART HISTORY

    山下裕二 (監修), 高岸輝 (監修)

    美術出版社
    ¥ 2,940


    ■五姓田義松 最後の天才 に関するツイート


     
    会場
    会期
    2015年9月19日(土)~11月8日(日)
    会期終了
    開館時間
    9:30~17:00(入館16:30迄)
    休館日
    月曜日(9月21日, 10月12日, 11月2日は開館)
    住所
    神奈川県横浜市中区南仲通5-60
    電話 045-201-0926
    公式サイト http://ch.kanagawa-museum.jp/
    料金
    大人 900(800)円/20歳未満・学生 600(500)円/65歳以上・高校生 100円
    ※()内は20名以上の団体料金
    ※中学生以下・障がい者手帳をお持ちの方は無料
    展覧会詳細 没後100年 五姓田義松 ─ 最後の天才 ─ 詳細情報
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