前回の「市民からのおくりもの2013」では、徳川慶喜所用の陣羽織と陣笠が注目を集めた本展(
取材レポートはこちら)。改修工事の関係で2年ぶりの開催となる今回も、冒頭で紹介されている《隅田川納涼図屏風》をはじめ、バラエティ豊かな資料が揃いました。
会場は単に新収蔵資料を並べるだけでなく、6つの章で分類。美しい染織品の数々が紹介されているのが「美をまとう-装いのデザイン-」です。日常生活では使われなくなった着物ですが、大切に守られてきた衣類に見られる織りや染めからは、先人の高い技術を垣間見る事ができます。
会場入口と、「美をまとう-装いのデザイン-」 展示は11月15日(日)まで海や川に恵まれ、水の豊かな都市だった江戸。「水の都・江戸の四季と暮らしの文化」では、水と親しんだ江戸時代の暮らしを、絵画を中心に紹介します。
市川其融による琳派風の屏風《四季風物図屏風》も目に留まりますが、面白いのが秋田藩の下屋敷庭園「浩養園」の全景を描いた絵図《秋田公中之郷名園之真景》。現在の墨田区吾妻橋にあった浩養園は江戸時代には天下の名園として名高く、明治時代に札幌麦酒が買収。大正14年までビール園として利用された同地には、現在はアサヒビール本社が建っています。
「水の都・江戸の四季と暮らしの文化」旅をテーマにした章が「江戸東京の旅さまざま-将軍から庶民まで-」。姫君の輿入れや将軍の参詣など大掛かりな旅の模様を記した資料の他、会場では十返舎一九の道中記も展示。この道中記は挿絵も一九の作と見られ、犬好きだったのか、達者な犬の挿絵が目立ちます。
時代はだいぶ下りますが、大正時代の高等小学校2年生(現在の中学2年生)が書いた《京浜地方修学旅行日記》は、渾身の一作。上諏訪の少年が中央線に乗って修学旅行で横浜や東京を訪れた模様を書いたものですが、開通して間もない電車で遠い首都圏まで来た興奮を、達者なイラストも交えて綴っています。
「江戸東京の旅さまざま-将軍から庶民まで-」「戦時と復興の記憶」の章には、胸が痛む資料もあります。モダンなデザインに見える平皿は、関東大震災で被災し、包んでいた藁が溶けて模様状になったもの。戦地から送られてきた軍事郵便には子を思う父の気持ちが溢れていますが、送り主がこの後に愛娘に会う事はできませんでした。
日程表やユニフォームなど、1964年の東京オリンピック関連の資料も新たに蒐集。ちょっと珍しいところでは、解体されたばかりの国立陸上競技場の銘板(青山門にあったもの)も寄贈を受けています。新競技場の銘板がどうなるのかも、気になるところです。
「戦時と復興の記憶」家に伝わる大切な品々を寄贈する側にとっても、この展覧会は晴れ舞台。毎年の開催はとても喜ばれており、この活動こそが、次の資料の円滑な蒐集に繋がっているのです。
資料の蒐集・保存・分類・展示は、博物館業務の根幹。決して派手な企画ではありませんが、普段の博物館の活動を示す大切な展覧会です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年10月19日 ]※会期の途中で展示替えがあります
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