たばこが日本に伝わったのは、16世紀の終わり。慶長年間(1596~1615)中頃以降には喫煙の習慣が広まっていきました。
江戸時代の日本における喫煙は紙巻きたばこや葉巻ではなく「細刻みたばこをきせるで吸う」スタイルでした。その中で、喫煙具も独自の発展を遂げていきます。
火入れ・灰落し・たばこ入れがセットになった「たばこ盆」。当初は平らな盆に載せていた事からこの名で呼ばれます。持ち手や風覆いが付くなど機能的になると同時に、デザイン的にも凝ったものが作られるように。上流階級が用いたものには、豪華な蒔絵なども見られます。
さまざまな「たばこ盆」3点展示されているきせるで一番長いのは、なんと104.1cmもある「花見きせる」。江戸時代初期には、このような派手なきせるを持ち歩く事が伊達男や遊女の間に流行していました。他の2点は初期のきせるとして代表的な形です。
たばこを持ち歩く際に必要なのが、たばこ入れです。当初は巾着などが転用されましたが、17世紀の終わり頃には油紙や絞り紙(ちりめん状の紙)でできたたばこ入れが一般に普及します。
たばこ入れは、落語家の八代目桂文楽のコレクション。八代目桂文楽は子どもの頃にたばこ入れ屋で奉公していた事もあって、若い頃からたばこ入れを蒐集。うち40個の逸品が、たばこと塩の博物館の所蔵になっています。
たばこ入れも、時代が下るに連れて装飾性が増します。革や布が使われるようになり、小さな金具にも凝った意匠が。根付や印籠、刀装具などにも見られる、日本ならではの高い工芸技術です。
「きせる」と「たばこ入れ」本展で最も多く紹介されているのが浮世絵です。浮世絵には、たばこが描かれた作品も少なくありません。ここでは錦絵の祖である鈴木春信から、明治に活躍した豊原国周や井上安治まで、28名による64点が並びます。
鳥居清長の《美南見十二候》は、品川の遊里を描いた揃物。画中には黒いたばこ盆やきせるが見られますが、このような遊び場において、たばこは無くてはならない嗜好品でした。
浮世絵の定番ともいえる役者絵にも、しばしばたばこが登場します。初代歌川豊国による《あやめの茶屋》は、6人の人気役者を描いた作品。きせるに描かれた浮彫(丁子車)や、たばこ入れの金具の形(釻菊)が役者の紋の形になっている事で、どの役者が誰なのか分かります。
歌川国芳《江戸自慢程好仕入 ほぐそめ》の女性は、紙の“こより”をきせるに入れています。ヤニで煙の通りが悪くなるため、きせるは時おり掃除が必要でした。
展示しているすべての浮世絵に、喫煙具が見られます会場の特別展示室はかなり広い事もあって、ここだけでもかなり見応えがありますが、「たばしお」は常設展も充実しています(
常設展の取材レポートはこちらです)。
さらに今回の特別展は館蔵品ということもあって、通常の入館料で観覧可能。一般・大学生は100円、小・中・高校生なら50円というリーズナブルプライスです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年11月2日 ]■浮世絵と喫煙具 世界に誇るジャパンアート に関するツイート