物語を絵で表現するのは古今東西どこでも見られますが、日本でもその歴史はかなり古くから。例えば伊勢物語が初めて文献に現れる源氏物語では、早くも伊勢物語は絵巻として登場します。
さまざまな物語を描いた作品を紹介する本展。「物語絵」といえば絵巻がすぐに想像されますが、今回は中世に作られた絵巻や冊子などの小画面のものから、近世に描かれた大画面の屏風まで、多彩な表現も見どころのひとつです。
展示室1会場最初は、その「伊勢物語」から。対幅の掛軸である《伊勢物語図》(板谷広長 筆)は江戸時代の作品です。描かれた場面の様子とともに、画面上部には和歌も貼られているため、どの場面を描いたものか分かります。
会場にはいろいろな物語が並びますが、源氏物語を題材にしたものが最多の7作品です。6曲1双の屏風《源氏物語図屏風》(住吉具慶 筆)は、右隻が源氏40歳の祝いの場面、左隻が源氏が紫の上とともに住吉を詣でる場面と、光源氏の絶頂期を描いている事から、婚礼用などお目出度い席のために作られたものと思われます。この屏風も、上部に和歌が貼られています。
《伊勢物語図》と《源氏物語図屏風》「仇討ち物」として人気が高い、曾我物語。曾我十郎祐成と五郎時致の兄弟が、父の敵を討つストーリーです。
《曾我物語図屏風》の右隻は、富士山麓での狩りの場面。源頼朝が行った狩りに紛れ込んで仇討ちを果たそうとしますが、十郎の馬が木の根につまづいて失敗。暴れる猪に飛び乗っているのは、後に十郎を討つ事になる仁田忠常です。
左隻はやや珍しく、1隻にいくつもの場面が描かれています。従者と別れた兄弟は、敵の寝所に踏み込み、ついに敵討ちに成功。ただ、その後十郎は討たれ、五郎は捕まって源頼朝の前に引き出され、処刑されてしまいます。絵巻と違い場面が右から左に進むわけでは無いため、鑑賞にはちょっとコツが必要です。
《曾我物語図屏風》展示室2には、絵巻がずらり。ユニークな《蛙草紙絵巻》、狐が美女に化ける《玉藻前物語絵巻》なども見事な絵巻ですが、ここでは鬼を退治する《酒呑童子物語絵巻》(伝 狩野山楽 筆)をご紹介しましょう。
姫君を誘拐する悪い酒呑童子を討伐に向かった源頼光ら。酒を飲ませた酒呑童子を手足を縛りつけて見事に首をはねますが、なんとはねられた首が再び頼光へ。頼光は三神から与えられた星甲をかぶっていたおかげで、一命をとりとめました。
残虐なシーンが印象に残る一方で、美しい四季の描写もお見逃しなく。絵巻はストーリーが進んでゆくため、四季の表現は絵師の腕の見せどころでもあります。
《酒呑童子物語絵巻》なお、同時開催中のテーマ展示として、展示室5では100図の扇面に100首の和歌を添えた「扇面歌意図巻」が展示中です。以前の展示でリクエストが多かったため、今回は全作品の釈文と解説入りの図録も作られました。あわせてお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年11月13日 ]■根津美術館 物語をえがく に関するツイート