14世紀から18世紀にかけてのヴェネツィア絵画を中心に、約2000点を有するアカデミア美術館。日本で同館のコレクションだけで構成される展覧会が開催されるのは初めてです。
展覧会は時代順の4章+肖像画で、計5章。まずはヴェネツィア・ルネサンスの黎明期です。
フィレンツェよりやや遅れ、1440年頃に始まったヴェネツィア・ルネサンス。この地の装飾的な趣味にルネサンスの表現力が出会った事で、花開いていきました。
中心は、ベッリーニ一族とヴィヴァリーニ一族の二大工房。中でもジョヴァンニ・ベッリーニ(1424/28?-1516)は、詩的な聖母子像を数多く描き高く評価されています。
第1章 ルネサンスの黎明―15世紀の画家たち16世紀初頭にヴェネツィア・ルネッサンスの黄金時代を築いたのが、ジョルジョーネ(1477/78-1510、本展には未出品)とティツィアーノ・ヴェチェッリオ(1488/90-1576)。前述のジョヴァンニ・ベッリーニの豊かな色彩にフィレンツェ派からの影響を加え、風景や女性像の名作が数多く生まれています。
展覧会の最大の目玉はここで登場。ティツィアーノの《受胎告知》が、サン・サルヴァドール聖堂から特別出品されました。なんと410×240センチという大きさ。下の方に描かれているマリアがほぼ等身大ですから、この絵の巨大さがお分かりいただけるでしょうか。
「色彩の錬金術」と評されていたティツィアーノによる、晩年の最高傑作。もちろん今回が初来日です。
第2章 黄金時代の幕開け―ティツィアーノとその周辺続く第3章では、ティツィアーノに続く世代として三人の巨匠が紹介されます。
劇的な明暗表現を得意としたヤコポ・ティントレット(1519-1594)、古典に根ざした様式を華麗な色彩で描くパオロ・ヴェロネーゼ(1528-1588)。ふたりは老齢のティツィアーノにかわり、16世紀末のヴェネツィアで覇を競うライバルでした。
もうひとりのヤコポ・バッサーノ(1515頃-1592)は、ヴェネツィアの内陸領土の町バッサーノ・デル・グラッパで活躍。田園の風景を舞台に聖書の主題を描き、高い評価を受けています。
第3章 三人の巨匠たち―ティントレット、ヴェロネーゼ、バッサーノ第4章では時代順と離れて、肖像画を紹介。
肖像画はヴェネツィア画派が得意とする分野で、堅苦しさを廃して人物の内面にまで踏み込んだような表現は、後の西洋美術の肖像画の規範にもなりました。身分の高い女性や、行政官、聖職者などが、注文主の意図に応じて表現されています。
第4章 ヴェネツィアの肖像画3章で紹介した三人の巨匠は、1580年代の終わりから90年代の前半にかけて他界。ヴェネツィア・ルネサンスはドメニコ・ティントレット(1560-1635、前述のティントレットの二男)、パルマ・イル・ジョーヴァネ(1548/50-1628)らが後を継ぎますが、時代はより劇的な効果を求めるバロックへ以降していきます。
パドヴァニーノ(1588-1649)も初期バロックに触発された画家。神話主題を官能的に描いた作品が並びます。
第5章 ルネサンスの終焉―巨匠たちの後継者日伊国交樹立150周年特別展としてい開催てれる本展。日本ではあまり知られていない画家もいますが、宗教画の大作が並ぶ会場は、西洋美術好きの方なら大満足と思います。ティツィアーノ《受胎告知》のような大作は、天井高がある
国立新美術館ならでは。広々とした空間で、神々しい傑作がお待ちしています。
東京展の後は、
国立国際美術館(10月22日~2017年1月15日)に巡回します。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年7月12日 ]■ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち に関するツイート