開館50周年の
山種美術館ですが、浮世絵コレクションの初公開は80年代になってから。現在の広尾に移転してから一挙に公開したのは2010年の「浮世絵入門」展のみと、滅多にお目見えしない作品が揃う貴重な展覧会です。
今回の展覧会では北斎の通称「赤富士」、ゴッホが模写した広重の《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》など知名度が高い作品も含め、86点の浮世絵版画を展示。会場には専門用語を分かりやすく解説したパネルも設置し、浮世絵初心者の方でも楽しくご覧いただけるように工夫されています。
会場世界でも現存点数が少ない、東洲斎写楽の大首絵。他の絵師の作品に比べると市場価格も極端に高い事もあり「写楽を持っているか否かでコレクターの格が分かる」(山下裕二先生)とも言われます。
山種美術館は、写楽の大首絵を3点も所蔵。所蔵浮世絵が約90点なので、驚異的な「写楽率」といえます。
写楽の大首絵でしばしば見られるのが、雲母摺(きらずり)の背景です。背景の輝きは、角度を変えて見れば一目瞭然。展覧会では写楽の2点の大首絵が写真撮影可能ですので、ぜひSNSでの拡散をお願いします(三脚・フラッシュ・動画は不可)。
東洲斎写楽の大首絵歌川広重の傑作、保永堂版《東海道五拾三次》。出発地の日本橋と到着地の京都・三条大橋を含めて55枚あるのは美術好きなら常識ですが、なぜか今回の展示は56枚? なんと、題字が摺られた画帖装の表紙(扉)が含まれています。
中身も、初期に摺られた事が分かる痕跡があちこちに見られます。例えば《日本橋・朝之景》は、上部に雲が摺られているのが最初期の特徴(後の摺りでは省略され、単なる青のグラデーションになります)。《蒲原・夜之雪》は空の上部の濃い墨のぼかしが初摺の特徴で、空の下が濃くなっている後の摺りとは印象が異なります。広重の制作意図がそのまま伝わってくるような、貴重な揃いものです。
歌川広重《東海道五拾三次》山種美術館開館50周年シンボルマークを設定、公募展を創設(再開)と、今年の
山種美術館は実に精力的です。トリビア的に付け加えると、8月22日に発売された
伊藤園「お~いお茶」秋限定パッケージも、
山種美術館所蔵の酒井鶯蒲《夕もみぢ図》がモチーフになっています(この絵も本展に特別出品中です)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年8月29日 ]■浮世絵 六大絵師の競演 に関するツイート