まずは、茶の湯と「香」の基礎知識から。香は「香木(それ自体に香を持つ木)」と、「練香(数種の香料を混ぜて練り固めたもの)」の二種類があり、茶の湯では、炉(11~4月)は練香、風炉(5~10月)は香木です。練香はやきものの香合、香木は漆器など木製の香合に入れます。
香が日本に入ってきたのは6世紀頃。仏教儀式では大香合も使われていましたが、日常的に携帯される径5cmほどの「袖香合」が、茶の湯で使われる香合のルーツです。
茶の湯における初期の香合は、唐物の漆器。続いて国産のやきもので香合が作られ、一気にその世界が広がっていきました。
現在の茶の湯で最も賞玩されているのが、寛永年間(1624~44)に中国からもたらされた、やきものの香合。展覧会メインビジュアルの《交趾大亀香合》もそのひとつで、愛らしい亀の姿を象っています。
17世紀になると、野々村仁清が雅な意匠を取り入れた香合を制作。江戸時代には漆の香合にも新しい技術が取り入れられます。
19世紀には日本中の窯で香合が作られ、井伊直弼の茶会記にも多彩な香合が登場しています。
会場幕末には「形物香合番付」と呼ばれる香合の番付表が作られるほど人気を博した香合。会場にも安政2(1855)年版の番付「形物香合一覧」が紹介されていますが、そのうち40点ほどの作品が本展で展示中です。根津美術館の基礎となるコレクションを蒐集した初代根津嘉一郎も、香合に魅せられたひとりでした。
「香合百花繚乱」展は展示室1での開催ですが、コレクション展の「釜 ―茶室の主の姿―」(展示室2)、「花月の茶」(展示室6)にも1点ずつ香合が出ています。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年2月21日 ]■香合百花繚乱 に関するツイート