会場は「美術」「マンガ」「キッチュ」の3章構成。さまざまなジャンルに関った石子の姿勢を、横断的に読み解いていきます。
最初の「美術」コーナーの奥では、石子が企画に携わり、その考えが大きく反映された1968年の「トリックス・アンド・ヴィジョン」展が一部再現されています。
「だまし絵」的な作品を集めた同展。「絵を見る」ことは“布に置かれた絵の具を見て空間を認識しているだけ”という発想から、錯覚を利用しただまし絵を見せることによって、「絵を見る」ことは単なる約束ごとに過ぎない、ということを示しています。
「トリックス・アンド・ヴィジョン」展から、飯田昭二の「HALF & HALF (ピンポン玉)」。左右から見ることで、ピンポン玉が黄色だけになったり、白だけになったりする。「マンガ」コーナーの目玉は、つげ義春「ねじ式」の原画一話分。展覧会で紹介されるのは初めてで、これを目当てにくる来館者も多いそうです。
手前にはマンガの単行本を吊るして展示しているコーナーもあり、来館者は自由に手に取って読むことができます。マンガを展示品にするのではなく、実際に石子が評論した作品を、石子と同じように体験して欲しい、という狙いです。
つげ義春「ねじ式」の原画展示最後は「キッチュ」のコーナー。石子はキッチュの概念を初めて日本に紹介した人物としても知られています。観光地のペナント、ビラやチラシ、銭湯のペンキ絵、食品サンプル…およそ美術品とは縁遠い品々が並びますが、それぞれに石子の考えが示されています。
例えばモナリザグッズ。モナリザが名画なのは“当たり前”であるため、モナリザを使ったグッズは数多く作られていますが、なぜ“当たり前”なのか。“当たり前”によって人は縛られているのではないか、という思考に沿った展示です。
華々しい「キッチュ」の展示室は見ものです無節操にすら思えるほどの多彩な展示品も、各々の解説を読むと、明快な石子の思想が浮かび上がってきます。公立の美術館としてはかなり珍しい企画だと思いますが、企画側の熱意が伝わってくる意欲展といえるでしょう。ちなみに、画材店・世界堂のモナリザ広告は「これを美術館で展示するのが夢だった」(担当学芸員の成相氏)とのことです。
最後に、
府中市美術館についてご紹介します。都立府中の森公園内にある同美術館は、2000年4月の開館。誰でも気軽に楽しめるように、全館バリアフリーの施設です。作家の公開制作も頻繁に行われており、本展でも同時開催として、横尾忠則氏により公開制作が行われています。
館のオフィシャルキャラクター「ぱれたんとむら田」は、インターネットミュージアムの
2010年ミュージアムキャラクターアワードで2位に輝いた人気キャラです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2012年1月13日 ]