現在では機械織りが主流になったレース。「アンティーク・レース」は、熟練した職人たちが長い年月をかけ、手作業で制作した一級品です。
第1章「誕生と変遷」では、「ニードルポイント・レース」と「ボビン・レース」の変遷を紹介。その技術は、宮廷文化が花開く18世紀に究極まで高められました。
ニードルポイント・レースは、刺繍職人の技術が基になっています。この技術は名前の通り、針を刺してレースを作る技法です。
ボビン・レースは、織り上げた布が端から糸がほつれないよう装飾として処理するため、経糸を交差させて組む房結びの技法が発展したものです。
どちらも浮かび上がった模様は、薄くて繊細。その背景には気の遠くなるような熟練した職人たちの技が垣間見えます。
1章「誕生と変遷」、2章「レースに表現されるもの」、3章「王侯貴族のレース」続く第2章「レースに表現されるもの」では、技法が発展し、自由な運びが可能となった糸が織りなす様々なモチーフが紹介されます。
動植物のほか、王侯貴族から農夫といった人々から天使や神仏にいたるまで、多くのモチーフが表されています。
第3章「王侯貴族のレース」は、名だたる王侯貴族たちを魅了した美しいデザインのレースが並びます。
才女と言われたルイ15世の公妾・ポンパドゥール夫人は、当時のファッション・リーダーでした。彼女の袖口を彩ったとされるアンガジャントも展示されています。
かつての王侯貴族たちの肖像画を見ると、襟元や袖口などに精緻なレースが描かれています。レースを装うことは、美意識の高さも表しています。
4章「キリスト教文化に根付くレースの役割」、5章「ウォー・レース」第4章「キリスト教文化に根付くレースの役割」では、冠婚葬祭をはじめとした庶民の暮らしにも浸透したレースが紹介されます。
19世紀まで洗礼服は色鮮やかで豊かでしたが、王室や貴族の子どもだけは、白で洗礼を受けました。白は、無垢や純粋さ、神との一体感を象徴した色といわれています。
また亡くなった妻の髪の毛で編んだレースも展示。よく見ると妻の名前が編まれています。こちらはぜひ、無料貸出されている単眼鏡を使ってご覧ください。
第5章「ウォー・レース」では、第一次世界大戦中にベルギーで生まれたレースが並びます。
ウォー・レースには従来のレースとは違い、ベルギーの国章や味方の連合国の紋章、平和の象徴がモチーフとして描かれています。政治的な意味が込められた、珍しいレースといえます。
横浜、京都と巡回した展覧会は東京会場で最後。職人たちが手で作った精緻なレースの世界を間近で見る最後のチャンスです。お見逃しなく。
[ 取材・撮影・文:静居絵里菜 / 2018年60月11日 ]