線描に向いていますが、重ね塗りや混色ができないクレヨン。繊細なグラデーション表現や混色が可能ですが、紙の上での定着に難があるパステル。両者の良いところを合わせ持つ画材として開発されたのが、クレパスです。
クレパスの普及に大きく寄与したのが、洋画家の山本鼎(やまもとかなえ)。山本は児童画の教育において、手本を模写させていた臨画教育から、感じたままに描かせる自由画教育への転換を推進。描きやすいクレパスは、教育現場に広まっていきました。
本展は、サクラアートミュージアムが所蔵するクレパス画を紹介するもの。サクラクレパスは戦後から1960年代にかけて、当時すでに大家とよばれていた作家に声をかけて、クレパスによる絵画制作を依頼。この流れは、現在でも続いています。
会場には日本近代美術史に残る巨匠から、新進気鋭の現代美術家まで、多彩な顔ぶれによるクレパス画がずらり。いくつかご紹介しましょう。
寺内萬治郎(1890-1964)は日本芸術院会員。「裸婦の寺内」と称される的確な人体表現は、クレパスでも見事に表現されています。
展覧会には洋画家だけでなく、彫刻家や版画家の作品があるのも特徴的。先日、100歳で亡くなった浜田知明(1917-2018)のクレパス画もあります。
「太陽の塔」で知られる岡本太郎(1911-1996)のクレパス画は2点展示。岡本太郎は、どの画材を使っても、岡本太郎になります。
気鋭の作家では、入江明日香(1980-)や絹谷香菜子(1985-)など。繊細な描写はクレパス画とは思えませんが、さまざまな道具を使う事により、クレパスはさらに表現の幅を拡げる事が可能です。
絵具と違い、乾きを待つ必要が無いクレパス。半分に折って短くしたクレパスの側面を使う事で面描が可能で、厚く塗り込むとクレパス特有のしっとりとした塗面が得られます。絵具と違って何色混ぜても色が濁らないのもポイント。経年劣化によるダメージにも強い、極めて優秀な描画材料なのです。
ここまで読んで自分でも描きたくなった方は、1階ロビーの「クレパス画体験コーナー」へ。ゴッホ「ひまわり」のぬり絵など、色々なクレパス画が体験できます。事前申し込みの必要はなく、当日自由参加が可能、しかも無料です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年7月13日 ]※作品はすべてサクラアートミュジアム蔵