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    レポート
    木版画の神様 平塚運一展
    千葉市美術館 | 千葉県
    版業80年の幸福
    大正時代から1990年代まで活躍した木版画家・平塚運一(1895-1997)。創作版画家としては珍しく伝統的な彫版を身に着け、その高い技術は「木版画の神様」と称されるほどでした。生涯をかけて取り組んだ木版画を中心に、80年の版業をぴったり300点で振り返る展覧会が、千葉市美術館で開催中です。
    《雲崗瑞雲 蒙疆》昭和32年(1957)千葉市美術館寄託
    《東京震災跡風景 築地》大正12年(1923) / 《東京震災跡風景 和田倉門》大正12年(1923) ともに千葉市美術館
    《机上小禽》昭和3年(1928)千葉市美術館寄託
    平塚運一著『版画の技法』昭和2年(1927)千葉市美術館
    《百済旧都》昭和10年(1935)千葉市美術館 / 《新羅旧都 朝鮮慶州》昭和10年(1935)千葉市美術館寄託
    《阿蘇山上》昭和15年(1940) / 《臼杵石仏》昭和15年(1940) ともに千葉市美術館寄託
    《彫り上げて》昭和29年(1954) / 《宮島の歌》昭和29年(1954) ともに千葉市美術館寄託
    《春のワシントン記念塔》昭和48年(1973) / 《サンフェルナンド鐘楼のあるミッション 南カリフォルニア》昭和48年(1973) ともに千葉市美術館寄託
    《鏡Ⅷ 正面と背面》昭和50年(1975) / 《鏡Ⅶ 波》昭和50年(1975) ともに千葉市美術館寄託
    江戸時代の浮世絵のように、絵師・彫師・摺師の協業で作られる木版画に対して、自画・自刻・自摺を旨とするのが創作版画。平塚運一は創作版画を代表する存在です。

    展覧会は年代順で、第1章は「創作版画界の中心へ 1913-1932」。平塚は松江市生まれ。水彩画を絶賛されて洋画家の石井柏亭に入門するも、柏亭は平塚に浮世絵系の彫師・伊上凡骨を紹介。ここでの半年間の修行は、後の創作にとって大きな財産となりました。

    作品に目を向けると、初期の作品から実に刀の使い方が多彩。一般的に創作版画家は、伝統木版画への対抗意識もあって、彫師の技術を軽視しがちですが、平塚はその技術をふまえた上で、自在に作品を生み出していきました。

    昭和2年には著書『版画の技法』も刊行。日本版画協会や国画会版画部の創立にも尽力し、名実ともに創作版画界の第一人者になっていきます。


    第1章「創作版画界の中心へ 1913-1932」

    第2章は「多色摺の成熟、墨摺の幕開け 1933-1951」。この時期になると、多色摺の作品はますます成熟。鮮やかな色と単純化した構成で、自信に満ちた、鮮烈な大作が目立つようになります。

    一方で、墨摺が目立つようになるのもこの時期。平塚は、摺った後に紙をあげて、墨を足して、また摺る「あげ摺り」という独特の手法を用いて、紙の地と深い墨のコントラストが際立つ作品を作っていきます。

    輪郭がギザギザになっているのは、木槌でアイスキ(間透:ノミ状の彫刻刀)を叩いて彫る「突き彫り」で生まれたもの。ゴツゴツとした形態表現で、重量感をもたせています。


    第2章「多色摺の成熟、墨摺の幕開け 1933-1951」

    第3章は「黒白の版画は版画の極致である 1952-1961」。最も良い墨摺が出てくるのが、この時期です。

    日本の創作版画にとって、1950年代は最も華やかな時代です。国際的な展覧会で版画家たちは受賞を重ね、平塚もその一員として位置づけられました。

    平塚は、版画の極地は墨摺であると確信し、大型の墨摺作品を続々に制作していきました。会場には見ごたえがある大きな墨摺がたっぷり。平塚の代表的な墨摺作品の多くは、この時期に制作されたものです。


    第3章「黒白の版画は版画の極致である 1952-1961」

    第4章は「新天地アメリカ 1962-1996」。昭和37年に、三女が住んでいたワシントンD.C.に渡った平塚。1年ほどの滞在予定が、33年間住み続ける事となります。

    アメリカの珍しい風景を、平塚は墨摺で制作。現地では東洋的な表現が驚きをもって迎えられ、平塚はアメリカでも活躍を続けます。

    70歳を過ぎて夢中になった新たな題材は、なんと裸婦。生命力にあふれる裸婦像を集中的に制作しました。

    1994年に帰国した平塚。懐かしい故郷である松江にも帰郷を果たしています。1997年、102歳の誕生日の翌日に死去。版業はなんと80年に及んでいます。


    第4章「新天地アメリカ 1962-1996」

    「彫り上げて いざ摺らんかな 初摺りの この嬉しさを 誰にか語らむ」。この詩を作品に表したのは、59歳の時でした。

    いつでも制作の喜びに満ち溢れていた平塚。木版画に全幅の信頼をおいて真っすぐに進んだ、幸福の版画家といえるでしょう。

    巡回はせずに、千葉市美術館だけでの開催となります。

    [ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年7月17日 ]


     
    会場
    会期
    2018年7月14日(土)~9月9日(日)
    会期終了
    開館時間
    午前10時-午後6時 (入場は午後5時30分まで)
    金曜日・土曜日は午後8時まで (入場は午後7時30分まで)
    休館日
    8月6日(月)、9月3日(月)
    住所
    千葉県千葉市中央区中央3-10-8
    電話 043-221-2311
    公式サイト http://www.ccma-net.jp/
    料金
    一般 1,200(960)円 / 大学 700(560)円 / 小・中学生、高校生無料

    ※( )内は前売り及び20名以上の団体料金、市内在住の65歳以上の方の料金
    ※障がい者手帳をお持ちの方および介助者1名は無料
    ※前売券は千葉市美術館ミュージアムショップ(7月8日まで)、各プレイガイドにて7月13日まで販売
    展覧会詳細 木版画の神様 平塚運一展 詳細情報
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