1967年に開館した神奈川県立歴史博物館(当時は神奈川県立博物館)。改修工事による休館中に、開館50周年を迎えました。
館では以前から、幕末明治の横浜を中心に、西洋の美術に影響を受けた作品を収集してきました。本展はその成果を紹介する企画です。
展覧会は「序」と「結」の間に「写真と写実 ─ 二次元の挑戦 ─」「見世物から工芸へ ─ 三次元の挑戦 ─」「版と刷 ─ 印刷革命の鼓動 ─」の3章。絵画・立体・印刷という展開ですが、章ごとではなく、会場全体で明治という時代を感じさせる狙いです。
最初の展示室は、展覧会を象徴する作品からスタート。幕末明治最大の版元、大倉孫兵衞が自ら選んだ錦絵画帖は、本展初公開。明治浮世絵の重要資料です。
大きな展示室に進むと、展示ケースには膨大な作品が。「より多くの作品や資料を並べることで、多くのモノが響き合い、共鳴し合い、皆さまに明治という時代の力強さが伝わると信じている」(会場の説明パネルから)とあるように、出展総数は210件(前後期通じて)です。
五姓田派は、幕末から明治初期に活躍した絵師集団。
「没後100年 五姓田義松 ─ 最後の天才 ─」展(2015年)でも注目を集めました。伝統技法と西洋絵画がミックスした、独特の作風です。
いわゆる「美術」の範疇に入らない作品が多数展示されているのも本展の特徴です。
パノラマ館は、日清・日露戦争期に流行した娯楽施設。人形と大壁画を配した仮設小屋で、周囲を見渡して楽しむ趣向。VRのリアル版、といえるでしょうか。
土産物としての知名度が高い鎌倉彫も、ルーツを辿れば鎌倉仏師。廃仏毀釈により仕事が減少した仏師により広まりました。
版画の章には地図も。内務省地理局の地図制作に関わった岩橋教章は、元は狩野派の絵師。それを踏まえて見ると、表現としての地図の美しさにも目が留まります。
展覧会の最後は、明治天皇の肖像がずらり。内田九一による公式の肖像写真を元に、明治天皇を頂点にした近代日本のイメージ発信には、多くの美術家が関わっています。
美術館ではない
神奈川県立歴史博物館だからこそ開催できる、ユニークな展覧会です。美術とともに、幅広い「美術らしきもの」をお楽しみください。
なお本展は、無料のスマホアプリ「ポケット学芸員」での解説もあります。ナレーションは神奈川県内の高校の放送部員が担当、なかなか聞きやすいガイドでした。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年8月3日 ]※会期中に展示替えがあります(前期:8/4~9/2 後期:9/4~9/30)