文化史の中でも言及される事が増えた1968年。昨年、
国立歴史民俗博物館でも「1968年 -無数の問いの噴出の時代-」展が開催されました。
歴博では主に社会運動を取り上げたのに対し、千葉市美は芸術がテーマ。美術はもちろんですが、演劇・舞踏・映画・建築・デザイン・漫画などの周辺も掘り下げ、時代の表現を横断的に紹介していきます。
会場は4つのセクション、各章が2~5の小コーナーで分割されています。
1章「激動の1968年」は、時代の振り返りから。学生運動や三里塚闘争、ベトナム反戦運動の他、三億円事件、永山事件、金嬉老事件もこの年です。
社会運動は美術界にも飛び火し、多摩美の学生が美術家共闘会議(美共闘)を結成。「日宣美粉砕共闘」「草月フィルム・アート・フェスティバル粉砕共闘会議」など、権威とみなされた団体は攻撃されました。
続いて、2章「1968年の現代美術」。赤瀬川原平と針生一郎ら関係者の中で、ベトナム反戦と芸術の関係においてスタンスの違いが論戦を生んだのは「反戦と解放展」です。
テクノロジーを用いた環境芸術やインターメディアが盛んになり、その結実といえるのが日本万国博覧会。一方で、権力の象徴としての万博に反対する動き(反博)も発生しました。
第1会場3章「領域を超える芸術」では、美術以外に言及。唐十郎「状況劇場」、寺山修司「天井桟敷」らによるアングラ演劇。舞踏の土方巽も注目を集めました。
横尾忠則、宇野亜喜良らにより、イラストレーションが広まったのもこの時代。つげ義春、林静一に代表される「月刊漫画ガロ」は、漫画の可能性を次の段階に進めました。
LSDの幻覚体験から生まれた「サイケデリック」は、この時代を象徴するワードのひとつです。イラストや美術だけでなく、大衆文化にも波及しました。会場では赤坂にあった伝説のディスコ「MUGEN」のライトショーが再現され、当時の雰囲気も楽しめます。
第4章は「新世代の台頭」。写真の世界では、この年に写真同人誌「プロヴォーク」が創刊。「アレ、ブレ、ボケ」の不鮮明で攻撃的な写真を発表したのは、森山大道や中平卓馬らです。
石や木など、素材をそのまま作品とする「もの派」が登場したのも1968年です。関根伸夫は野外彫刻展で、大地に円柱型の穴を開け、その隣に掘り起こした土を穴と同じかたちに固めて置いた作品《位相-大地》を発表。現代美術に新しい流れをつくりました。
第2会場多彩な表現が生まれた時代ですが、全てが後に繋がったわけではなく、一過性に終わったものがあるのも事実。ただ、あらゆる分野で新しい挑戦が繰り返されていたのは、この時代ならではといえます。
千葉市美術館でスタート、北九州市立美術館分館(2018年12月1日~2019年1月27日)、静岡県立美術館(2019年2月10日~3月24日)に巡回します。
なお、1968年生まれの人は、通常1,200円の観覧料が500円になるという太っ腹サービスも実施中です(年齢を確認できる証明書をお持ちください)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年9月26日 ]