豊満な女性像が日本人の感性とはズレがあるのか、残念ながら日本では「絶大な人気」とは言い難いルーベンス。西洋では抜群の知名度を誇り、西洋絵画史に燦然と輝く存在です。
今回はルーベンスの作品が約40点揃うなど、近年では最大規模となるルーベンス展。古代美術の宝庫であるとともに、同時代の美術においても最先端だったイタリアとの関わりに焦点を当てた展覧会です。
会場は7章構成(公式サイトとは少し違います)で、1章「ルーベンスの世界」から。ルーベンスはドイツで生まれ、11歳で両親の出身地であるアントウェルペンに。イタリア滞在の後、この地に工房を構えました。
2章は「過去の伝統」。1600年、憧れのイタリアに旅立ったルーベンス。古代美術と同時代の美術、双方を吸収して、自らのスタイルを確立させていきます。《セネカの死》では、ローマで目にした有名な古代彫刻(現在はルーブル美術館蔵、本展未出品)を、ほぼそのまま画中に引用しています
3章は「英雄としての聖人たち ─ 宗教画とバロック」。カトリックとプロテスタントが真っ向から対立していた、この時代。カトリックでは分かりやすい宗教画が求められた結果、ダイナミックなバロックが成立しました。逞しい聖人と気品に満ちた聖女。表情やポーズで感情をあらわにします。
4章「神話の力① ─ ヘラクレスと男性ヌード」。豊かな想像力で神話画を描いたルーベンス。ヘラクレスを男性ヌードの模範としました。《ヘスペリデスの園のヘラクレス》は、著名な古代彫刻《ファルネーゼのヘラクレス》(本展には未出品)を絵画化した作品です。
5章「神話の力② ─ ヴィーナスと女性ヌード」。男性美がヘラクレスなら、女性美はヴィーナス。女性を描く際には、古代彫刻のヴィーナスを研究しています。ただ、時代が下るとルーベンスの女性像は理想美を離れ、より自然で肉感的な表現に変化していきました。
6章の「絵筆の熱狂」とは、17世紀の美術理論家ベッローリが、ルーベンスの絵画を評した言葉です。細部を省略しながらも、素早く熱狂的な筆遣いで、画面に統一感を与えているルーベンス。その特徴は《サウロの改修》などの群集図によく現れています。
7章「寓意と寓意的説話」。外交官を務めるほど、知識人だったルーベンス。象徴を組み合わせた寓意的な作品は、知識階級だけが理解できます。メインビジュアルの《エリクトニオスを発見するケクロプスの娘たち》は、神話の一場面でありつつ豊穣の寓意で、西洋文明のはじまりをも意味しています。
会場動線は、いつものように上階(地下2階)から入り、地下3階に降りて、また地下2階に上るルート。西美の地下3階の展示室は雰囲気が良く、ここに大型の宗教画が来るとバッチリはまりますが、本展がまさにそのパターンです。ごゆっくりお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年10月15日 ]