2018年は、“日本におけるロシア年”“ロシアにおける日本年”。両国の文化を紹介し合うイベントが、多数開催されています。本展もこの交流行事の一環、かつ、Bunkamura 30周年記念の企画展でもあります。
19世紀後半から20世紀初頭のロシアは、近代化が遅れたことにより、社会情勢は不安定でした。農奴解放令後も身分の違いが残り続け、権威に対する反発が日増しに強くなる一方、美術や文学などの諸分野においては、傑出した才能が多く輩出されました。
本展で紹介されている「移動派」も、その中に含まれます。移動派は、アカデミズムという制約を嫌うクラムスコイらにより、1870年、サンクトペテルブルクで設立。民衆を啓蒙しようとする運動も盛んになり、権威への抵抗、働きかけという点で、移動派はこの時代の特徴をよく表していました。
「ロマンティックな風景」は、ロシアの自然を理解してもらうために、作品を四季ごとに展示。春から冬へ変わっていく自然を展覧することができます。
中でもイワン・シーシキンの《雨の樫林》は必見。降り続いた雨による湿潤な空気感が、見事に再現されています。絵の前に立つと、雨の降る森林特有の香りがしてきそうなほど、リアリティーある作品です。森をテーマにした作品を得意としたシーシキンは、「森の王」とも呼ばれています。
クラムスコイの名作《忘れえぬ女(ひと)》は、日本でも人気がある花形の作品。実は日本に8回来日しています。今回も、日本へようこそいらっしゃいました。
本展覧会担当のガリーナ・チュラクさん(国立トレチャコフ美術館シニア・キュレーター)が「ロシアの人々は、この《忘れえぬ女(ひと)》が海外に行ってしまうと知った日には、早く帰ってきてほしいと願うのですよ」と語るほど、本国でも人気の高い作品。「ロシアのモナ・リザ」とも称されています。
同じ室内に展示されている《月明かりの夜》も、クラムスコイが描いた女性像です。月の淡い光が映し出す女性は、物思いにふけっているのか、視線の先の誰かを誘っているのか。感じ方は千差万別。クラムスコイの描いた女性たちの視線の先に誰がいるか、想像してみては?
本展終了後、岡山、山形、愛知に巡回します。会場と会期はこちらの
巡回展情報をご覧ください。
[ 取材・撮影・文:静居絵里菜 / 2018年11月22日 ]