最初に、タータンとチェックの違いについて。タータンは「2色以上の糸をつかい、それらの糸が直角に交わる格子柄である」「たて糸とよこ糸につかう糸の色と数が同じで、基本パターンが繰り返される」が条件です。
一方のチェックは、日本では格子柄全般を指しますが、英語圏では「チェス盤のような市松模様」か「正統なタータンではないもの」のこと。つまり「タータン・チェック」という呼称は、完全に矛盾している事になります。
展覧会は、このような定義も含め、タータンについて幅広く紹介する企画です。神戸ファッション美術館で開幕し、
三鷹市美術ギャラリーが2館目、首都圏では唯一の開催となります。
現在のタータンは登録制という事も、あまり知られていないでしょう。2008年に制定された「スコットランド・タータン登録法」により、公的な組織が登録・管理しています。
タータンの起源はケルト人にまでさかのぼります。その後、スコットランドの北西部・ハイランド地方で発展しました。本来は日常着として用いられており、この地方を象徴する存在といえますが、それが仇になり、タータンは受難の歴史を辿る事となります。
英国王位を巡る争いから、ハイランド人が1715年から数度に渡って蜂起(ジャコバイトの反乱)。鎮圧した政府軍は、二度とこのような事が興らないようにと、ハイランド文化そのものの衰退を図りました。1746年に通称「衣類禁止法」が制定され、なんとタータンは使用が禁じられてしまうのです。
ただその間も、ハイランド連隊に属する軍人はタータンが着用できました。諷刺画家ジョン・ケイによる版画にも、タータンを着用した軍人が描かれています。
禁止法は1782年に撤廃。美しく汎用性が高いタータンは、世界中に広まって行く事となります。
目的や用途によって、タータンはいくつかの種類に分けられます。スコットランドの由緒ある氏族(クラン)に由来するクラン・タータン、地域由来のディストリクト・タータン、軍隊用のミリタリー・タータンなど。企業が作成したコーポレート・タータンでは、日本の企業も多くのタータンを登録しています。
現在でもタータンは、とても身近なデザインです。会場にはスコットランドで活躍する6人のデザイナーによるドレスが展示。会場最後には、スコットランドのブランド「アンタ(ANTA)」による、タータン尽くしの製品も並びます。
日本にタータンが入ってきたのは明治以降です。洋装の普及でタータンも広まりますが、顕著になったのは戦後です。
1960年代のアイビー・ファッションのブームで、若い男性に拡大。70年代のアイドル・バンド、ベイ・シティ・ローラーズは、メンバーがそれぞれクラン・タータンを着用し、その人気は「タータン・ハリケーン」と呼ばれました。
80年代中頃には学校制服にタータンを採用する私立学校が増加します。伝統的でありながら、新しいイメージも出す事ができるタータンは、制服にぴったり。その流れは、アイドルのAKBや坂道シリーズの衣裳にも踏襲されていると言えます。
ファッショナブルなドレスが並ぶ、とても華やかな展覧会です。
三鷹市美術ギャラリーとしては異色の展覧会ですが、平易な解説で、年代を問わずにお楽しみいただけます。
東京展の後は、岩手、福岡、新潟と巡回します。
会場と会期はこちらです。[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年12月21日 ]