バブル景気に向けた消費社会の若々しさの中で、美術の世界でも、それまで主流だった禁欲的な表現が一気に弾けた80年代。ただ、その方向性はあまりにも多彩で、80年代美術を塊としてとらえる動きは少なかったように思われます。
本展は80年代の表現を、現在の視点で見つめ直すもの。今日の美術につながる事象を4章構成で捉え、懐古的ではなく、80年代美術の意義を検証していきます。
エントランスに鎮座するのは、中原浩大による巨大な彫刻《夢殿》。荒々しい油土のテクスチャは、中原が現地で仕上げました(オリジナルは1984年)。
1章は「メディウムを巡って」。思想や理念が先行していた前の時代に対し、「絵画・彫刻の復権」が謳われた80年代。もちろん、そのまま伝統に戻るのではなく、新たな表現が模索されました。この章はエントランスの中原浩大のほか、岡﨑乾二郎、諏訪直樹、辰野登恵子、戸谷成雄、中村一美の作品が並びます。
2章は「日常とひそやかさ」。「美術」に代わり「アート」という言葉が広まったこの時代。日比野克彦の段ボール作品は、日常にアートが溶け込むようになった80年代を象徴しています。一方でバブル景気と相対するように、ひそやかな感性に根差した作品も。舟越桂の半身像が象徴的です。この章は日比野、舟越の他に、今村源、杉山知子、吉澤美香です。
3章は「関係性」。現代アートにおいて、表現に観客が関わる「リレーショナル・アート」は、あたり前になりましたが、その萌芽は80年代に見出せます。川俣正のプロジェクトは、アートと社会を結び付ける先駆的な試みといえるでしょう。この章は他に、宮島達男、藤本由紀夫、松井智惠です。
4章は「記憶・アーカイヴ・物語」。モダニズムが否定した「物語性」を取り戻すのは、この時代の美術の関心事の一つ。欧米では新表現主義/ニュー・ペインティングの動きがありました。個人を作品に取り入れた顕著な例が、セルフポートレートの森村泰昌。画家へ転向した横尾忠則も、個人的な記憶をモチーフにしています。この章は他に、石原友明、大竹伸朗です。
この項では、昨年12月~今年1月に国立国際美術館で開催されていた「ニュー・ウェイブ 現代美術の80年代」もご紹介しましたが、巡回展である本展のほうがスタートは先。昨年7月に金沢21世紀美術館で開幕、高松市美術館を経て、静岡市美術館が最終会場です。
現在でも活躍中の作家も多く、各々の若い頃の作品展という側面でもお楽しみいただけます。東京には巡回しませんので、ご注意ください。
1980年代生まれの人は800円で観覧できる「80年代割引」や、ほぼ同時期に静岡県立美術館で開催される「1968年 激動の時代の芸術」展(2/10~3/24)との相互割引も実施中です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年1月8日 ]
| | 起点としての80年代
金沢21世紀美術館(編集),高松市美術館(編集),静岡市美術館(編集) My Book Service Inc. ¥ 3,510 |