岩﨑小彌太の邸宅で大切に飾られていた《岩崎家雛人形》。戦後の混乱期に岩崎家を離れ、三人官女は京都へ、五人囃子は中国地方へと、文字通り各地に散逸していました。
数奇な運命を経て、岩崎家ゆかりの静嘉堂に戻ってきたのは、ひとりのコレクターの情熱があったからこそ。内裏雛に出会った桐村喜世美氏がその美しさに心をうたれ、方々に声をかけて熱心に蒐集。ついに15体全てを揃え、このほど、静嘉堂に寄贈されました。
人形を作ったのは、京人形司の老舗 「丸平大木人形店」の五世大木平藏。小彌太から「他にはない雛人形を」と依頼され、約3年の歳月をかけて作り上げました。ちなみに代金は2万円。現在なら、1億~2億円ほどという衝撃プライスです。
では、あらためて《岩﨑家雛人形》をご紹介しましょう。内裏雛は、丸い顔で幼児のような愛らしい姿。男雛の装束から、皇太子と妃の御成婚を模した姿という事が分かります。内裏雛は足に関節がある「三つ折れ」で、立たせる事も可能です。
注意して見ていただきたいのが、五人囃子。左の二人は、演奏に力が入る「大革(大皮)」と「太鼓」なので、顔色が若干赤くなっています。
随身(左大臣・右大臣)は虎皮の敷物に座っていますが、なんと虎柄の模様は毛植え細工。衣装をめくらないと見えない敷物まで、全く隙がありません。
会場奥には雛道具も。ただ、以前の写真にある道具で見つかっていないものも、いくつかあります。今後の調査も待たれます。
展覧会もうひとつの注目が、おなじく五世大木平藏による《木彫彩色御所人形》。こちらは、小彌太の還暦祝いのために、孝子夫人が誂えさせました。
七福神を中心に、日本の童子や唐子たちが楽しげに行列。卯年生まれの小彌太にちなんで、宝船には兎、人形も兎形の冠を戴いています。細かな凸凹も全て木彫りしたうえで、彩色しています。。
会場では他にも、桐村氏の寄贈品と岩崎家旧蔵の人形から、個性的な品々を展示。勇壮な五月人形は、神武天皇をあらわしたもの。巨大な犬筥(いぬばこ)は魔除け・夫婦和合の象徴です。
学芸が充実して、新年度はパワーアップする静嘉堂文庫美術館。従来は年に4回の企画展でしたが、2019年度から年5回になります。年間の予定はこちらです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年1月28日 ]