16世紀から第一次世界大戦まで、ハプスブルク家に支配されていたチェコ。ゲルマン化の政策により、プラハなどではドイツ語の使用が強制され、母国語であるチェコ語は使用が禁止されていました。
そのチェコ語を守ったのは、人形劇でした。人形劇は、民衆のための娯楽などとみなされ、危険視されなかったため、人形劇は積極的に上演されました。
そのため、チェコでは人形劇が「文化の命綱」と称されるほど重要なものとされ、世界初の人形を専門に学べる国立大学機関や、人形劇専門の劇場が各都市にあります。
本展では、世界の玩具や遊具の研究者である、東京造形大学造形学部・大学院教授の春日明夫さんのコレクションから、糸あやつり人形とアート・トイなどの作品を中心に、4人の人形作家を紹介しています。
佐久間奏多さん(1977-)は世界中にコレクターがいる人形作家。劇場内でも見えるよう、普通のあやつり人形は約80センチと大きめですが、佐久間さんは、手のひらサイズの作品を制作しています。その世界観の作りこみに、ご注目。展示ケースの裏側に回ってみると…。ぜひ、会場でじっくり鑑賞してください。
チェコのあやつり人形は、落ち着いた色合いのイメージが強いためか、怖い印象をお持ちの方もいるかもしれません。今回紹介されている現代糸あやつり人形は、ポップで子どもでも親しみやすいものばかり。林由未さん(1979-)の作品を見てみましょう。
林さんも、初期は落ち着いた色彩の人形を制作していました。しかし、劇場で実際に人形を動かすこととなると、照明などの兼ね合いを考え、《終わらない夢 ― アリスシリーズ》など、鮮やかな色彩を持つ人形を制作するようになりました。
チェコの作家が制作した人形も展示されています。バーラ・フベナーさん(1971-)は、人形作家兼コスチュームデザイナー。布の使い方が巧みで、チラシに掲載されているピエロの人形《カシュパーレク》など、布素材の暖かみを生かした人形が展示されています。
あやつり人形だけでなく、ミロスラフ・トレイトナルさん(1962-)の、アート・トイも展示されています。その鮮やかな色彩に注目。素材を生かしたデザインなど、「おもちゃ」というよりは、造形作品のようです。
会場内2カ所で、あやつり人形を動かしている映像も紹介されています。その絶妙な動きは、プロによる実演。映像制作の際、担当学芸員も少し動かしてみたそうですが、「生きているように動かすのは難しい」とのことでした。
[ 取材・撮影・文:静居絵里菜 / 2019年2月12日 ]