5万点を超えるコレクションを有する神奈川県立歴史博物館。さまざまのテーマで特別展・コレクション展を開催していますが、屏風だけにスポットを当てる企画は、1967年の開館以来初めての試みです。
会場は章立てではなく、1つずつの屏風に向き合ってもらう構成。解説パネルの文字も最小限にとどめ、会場冒頭で「読む時間より、見る時間を多くとってください」(展覧会担当の橋本遼太学芸員)と呼びかけています。
入って左手には、2種の《四季耕作図屛風》が並んで展示。左が狩野探幽、右が前島宗祐によるもので、前島版は一隻ですが、元は対になる左隻があったと思われます。
ともに稲作の流れを描く枠組みは同じですが、前島版が作業そのものを描いているのに対し、探幽版は墨の濃淡で遠近感を出し、屏風全体の一体感に力点が置かれています。
屏風絵が発展した大きなポイントとして、紙蝶番(かみちょうつがい)の発明があります。扇(せん:屏風のひとつの画面)から枠が無くなった事で、ひと続きの大きな絵が描けるようになったのです。
本展最大の注目が《木賊図屏風》。水流を挟んで、真っ直ぐに生える木賊(とくさ)。画面の上部を大きく空けた、大胆な構図です。ほとんど展示される事が無かった作品ですが、今後、人気が出そうな予感がします。
表面が固く、茎でものが研げるトクサ。トクサ→磨く→明るい月→兎、という流れから、円山応挙らの作品に「木賊と兎」の組み合わせが見られます。本作は月や兎こそ描かれませんが、金地を月の光に、右端の石(奇妙な形です)は、兎に見立てられるかもしれません。
《源平合戦図屏風》も2種。左は六曲一双、右は六曲一隻です。六曲一双の方は、鵯越、敦盛、那須与一、安徳天皇の入水と、名場面を網羅的に描写。壇ノ浦まで描かれるのは珍しい作例です。六曲一隻は、敗走する平家一門が主題になっています。
なぜか全員、表情が物憂げな《南蛮屏風》。左隻では船が左側に向かい、右隻は行列が右に向かっており、並べると方向が合いません。向かい合わせにすると方向が揃うので、そのような立て方だったのかもしれません(そもそも屏風の立て方に決まりはありません)。
常設展観覧料(20歳以上 300円など)のみで見られる、嬉しい設定です。会期中で少しだけ展示替えがあります。
本展は撮影可能ですが、マナーにはお気をつけください。展覧会の趣旨とは異なりますが、冒頭のメッセージが素敵だったので、最後にご紹介しましょう。
‘あなたの「撮りたい」と、隣の方の「ゆっくり静かに見たい」’
‘これらは等しく大切な気持ちです’
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年3月7日 ]