神奈川県立歴史博物館では20年ぶりとなる、横浜浮世絵の特別展。2019年5月30日(木)からは、後期展が始まっています。
開港により、日本の中でいち早く西洋文明が流入し、近代化が進んだ横浜。横浜浮世絵は、開港後の横浜の街の姿や、外国人を描いた浮世絵作品の事で、異国情緒漂う表現が特徴です。
展覧会の序章は「横浜開港前夜」。開港以前の横浜は、観光名所どころか、浮世絵の題材になるようなものは何もありません。東海道の神奈川宿は、横浜駅より東神奈川駅の近くです。
第1章は「街ができる ─ 横浜開港 ─」。横浜は新しく整えられた事もあり、町並みが整然としています。貞秀の鳥瞰図で、2本の突堤(東波止場と西波止場)や、港に沿って建物が立ち並ぶ姿が分かります。
開港にあわせて、現在の横浜スタジアム付近に完成したのが、港崎遊郭です。多くの遊女屋の中でも岩亀楼(がんきろう)は豪華で知られ、なんと内部にはシャンデリアが。ゴージャスな建物で外国人が遊ぶさまは、IR(統合型リゾート)の先駆けともいえそうです。
第2章は「外国人たちとの出会い」。安政五カ国条約によって、アメリカ・オランダ・ロシア・イギリス・フランスと条約を締結した日本。当時の日本人にとっては、この5カ国に清(中国)を加えた6カ国の人々が“外国人”でした。
これまで見た事がなかった顔つきや髪形、そしてファッションをはじめとした身の回りの品々。新しい文化は浮世絵師を強く刺激し、多くの浮世絵が描かれました。
中には、外国人だけでなく、彼らの母国を描いた浮世絵も。ただ、資料を元にしているためか、同じ建物が別の国でも登場したりと、真実味に欠ける部分もあります。
第3章は「ヨコハマの明治」。1866年に起こった「横浜の大火」以降、横浜は石造りの建築が増えました。浮世絵にも、ベランダ付きの2階建てなど、洋風建築が見られます。
横浜にとって大きな出来事だったのが、1872年の鉄道開通。新橋─横浜間で始まった鉄道は関心を呼んでいたようで、開業より前から多くの浮世絵に描かれています。
明治になって出版された横浜浮世絵には、東京ではなく横浜の版元から出版されたものもあります。少し前まで寒村だった横浜から、浮世絵が出版できるようになったという事が、まさに横浜の発展を示しています。
ただ、この時代以降は、横浜浮世絵は下火に。明治末になると、浮世絵そのものも終焉を迎えました。
開国から近代化という激動の時代、「新しいものを見たい・知りたい」という大衆の欲求に対し、想像力豊かに応えたのが横浜浮世絵です。中には荒唐無稽な表現もありますが、それもまた魅力のひとつです。
通常の浮世絵展ではなかなか出ない作品の数々をお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年5月31日 ]