神奈川県立近代美術館(旧鎌倉館)の開館は、戦後まもない1951年。東京国立近代美術館(1952年開館)より早い、日本初の公立の近代美術館でした。
“カマキン”の愛称で親しまれましたが、2016年に閉館。建物は鶴岡八幡宮に移譲され、現在は「鎌倉文華館 鶴岡ミュージアム」として再出発しています。
鎌倉別館は1984年の開館です。日本画家・山口蓬春旧蔵の膨大な資料が寄贈されたため、県営駐車場だった敷地に新たな建物が建てられ、鎌倉別館として開館しました。
約2年間に及んだ今回の改修で、老朽化した電気・空調設備を更新。外観は以前の佇まいを残していますが、エントランス前のテラスが広がり、カフェが新設されました。
2階の展示室は、場所や面積こそ変わりませんが、壁面が木調から白に変わり、多様な展覧会に対応可能。照明もLEDになりました。
見た目以上の大きな改良が、展示室入口の自動ドア新設です。展示環境(温湿度等)の管理がしやすくなったので、コレクション展の枠を超えた企画展も行えるようになりました。
リニューアル後、初の企画展となる「ふたたびの『近代』」。日本初の「近代美術館」として出発した館の変わらぬ姿勢として「近代」を掲げました。
出展作品は計54点。近代日本の洋画が中心ですが、壁面ガラスケースには橋本雅邦、狩野芳崖らの日本画も並びます。ちなみに、同館が掲げる「近代」は、幕末から現代まで含む広い期間を含んでいます。
左手奥には近年の収蔵品が展示されています。堀内正和《自刻像》は、2018年の葉山館での個展がきっかけで寄贈された作品。1920年代の作品を積極的に収集してきた同館として、幸徳幸衞《風景》と横山潤之助《風景》も重要な作品です。
先日まで東京ステーションギャラリーで「没後90年記念 岸田劉生展」が開催されていましたが、会場中ほどには、同展には出展されなかった《童女図(麗子立像)》と《野童女》が並んで展示されています。
ニヤッと笑う《野童女》は、寒山拾得図からの着想で描かれたもの。《童女図(麗子立像)》は、劉生が日記に「余の肖像画の中で最もすぐれたもの」と書き留めた、会心の作品です。
《窓外の化粧》は、日本の初期のシュルレアリスムの画家として知られる古賀春江の代表作です。都市を象徴するさまざまなイメージがコラージュされた作品で、川端康成から寄贈されました。
右手奥には、サウンド・インスタレーションの作品が展示されています。このような展示も、ホワイトキューブに生まれ変わった鎌倉別館の新たな試みです。
4つの扇風機に取り付けられたスピーカーから、うねるように音が響くのは、小杉武久《ヘテロダインII》。音の振動で水面に特徴的な波紋が現れる《ミ/ズ/ナ/リ》は、吉村弘の作品です。
展示室手前の展示ロビーでは「神奈川県立近代美術館アーカイブ」も紹介。約70年、計700回超の展覧会を開催してきた神奈川県立近代美術館の歩みを振り返る資料の一部が並びます。
今後は、葉山館と鎌倉別館の二つの建物で運営される神奈川県立近代美術館。それぞれ一年に数回の展覧会が開催される予定です。鎌倉別館の次回展は関根正二展(2020年 2/1~3/22)、同館では20年ぶりとなる回顧展です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年10月17日 ]