東洋では社会構造が大きく変わった16〜17世紀。大航海時代のダイナミズムも加わり、美の分野もさまざまなスタイルが交錯するユニークな時代であったといえます。
展覧会は分野別の6部構成です。会場の展示順は1~6部の流れになっていませんが、ここでは1部から順にご紹介しましょう。
第1部は「書跡のトランジション ─ 紙絹をとりまく理想と相克」。展覧会ではこの時代の中国・日本の書の多様性について「大きな紙絹への揮毫」に着目しています。中国では建築が大型化、日本でも障壁画など大壁面の需要が増え、離れて鑑賞する事も増えました。
書家は古法に倣いながら、新しい時代に即した書を模索。躍動的な表現はピークを迎えます。
第2部は「漆芸のトランジション ─ 深まるワザと行きかうデザイン」。中国・明の万暦年間(1573-1620)は、社会が爛熟した事もあり、古い時代の美術が流行。この時代の漆芸に見られる彫漆の堆朱・堆黒は、前の時代の技法です。日本でも古い時代の名品は愛され、需要に応えるかたちで憧古の作がつくられました。
重要文化財《花唐草七曜卍花クルス文螺鈿箱》は、いくつものスタイルが複合した作例です。器形は中国風、葉と蔓の曲線表現は南蛮風、花クルス文はキリシタンの影響と思われます。
第3部は「染織のトランジション ─ 素材と意匠のトランジション」。質の高さで人気があった明の絹織物は、16世紀後半になると南蛮貿易も加わり、輸入量は過去最高に。上流階級の小袖に仕立てられ、愛用されました。
戦場におけるファッションリーダーである戦国武将たちは、西洋の素材やデザインを取り入れた陣羽織で活躍。ファッション分野で西欧の流行が日本にもたらされる構図は、現代まで続いているといえます。
第4部は「陶磁のトランジション ─ 万暦からトランジショナル様式へ」。万暦期における景徳鎮の官窯では、退廃的な魅力を備えたやきものがつくられました。民窯のやきものは、西アジアから欧州にまで輸出されるようになります。
さらに明末清初には、欧米輸出用の青花磁器、いわゆるトランジショナル様式が誕生。それらは日本の陶磁器にも影響を与え、伊万里焼の誕生に繋がっています。
第5部は「典籍のトランジション ─ 過渡期の出版と文芸」。この時期の日本では商業出版への過渡期を迎え、書物が大衆化していきます。木活字による印刷もはじまりますが、時代が下ると再び整版(一枚の版木に彫る印刷法)が主流になります。
第6部は「屏風絵 ─ 過渡期の眺め」。《洛中洛外図屏風》は、応仁の乱から復興し、まさに中世から近世へのトランジション(過渡期)にあった京都の姿。《唐船・南蛮船図屏風》が描かれたのは、大航海時代を背景にした新奇な物への憧れかあります。
他館の名品も数多く出品された豪華な展覧会です。昨年に引き続き、根津美術館、三井記念美術館と共同で「秋の三館 美をめぐる」キャンペーンも開催中です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年10月25日 ]