日本と中国の古代のやきものや青銅器を中心に、約80点を紹介する本展。まずは土器からです。
気候が安定し、定住生活が営まれるようになると、食物を煮炊きする道具として土器が生まれました。縄文時代は濃密な装飾、弥生時代になると機能性重視と、日本の土器は変化していきます。
土偶と埴輪(はにわ)は混同されがちですが、土偶は「縄文時代の素焼きの人形」、埴輪は「古墳時代に墳墓に並べられたやきもの」。時代も用途も異なります。
会場には、日本の深鉢形土器(火焔型土器)と、中国の土器・青銅器との比較展示もあります。深鉢形土器は野焼きでつくられ、ワイルドさが魅力。同じ時期の中国土器は、ロクロで成形され窯で焼かれた端正さが特徴的です。
日本の埴輪に対し、中国では俑(よう)。兵馬俑の「俑」です。ただ、埴輪は古墳の上、つまり墓の外に並びますが、俑は墓の中に埋葬されます。用途の違いもあり、前者は単純で素朴、後者は写実的な作例が多くみられます。
中国の古代工芸の展示の主役は、まず青銅器です。現在の姿は緑青による錆色ですが、つくられた当初は金色でした。本展では殷から春秋時代の青銅器11点が展示されています。
紀元前1500年頃に中国で生まれたのが、釉薬をかけたやきもの「灰釉陶器」。表面のガラス層により高い実用性と美術性を兼ね備えており、これが後に青磁へと発展していきます。
関連展示として本展で初公開されるのが、ペルシア陶器です。ペルシアは現在のイラン高原を中心とした地域で、東西文化の交流地として栄えました。中国陶磁と比較した展示により、ペルシア陶器特有の明るい色と大らかな文様が良く分かります。
展覧会の最後は、日本人画家が愛したやきものです。小さな人形が愛らしい《加彩楽舞俑》は、安田靫彦の旧蔵品。靫彦は古美術愛好家でもあり、この俑をモチーフにした作品を何点か描いています。
逆に《埴輪 壺をのせる女性 杯をもつ女性たち》は、山口蓬春が1960年(昭和35)の第3回新日展に出品した作品「宴」(神奈川県立近代美術館蔵)に描かれましたが、蓬春が埴輪を描いたのはこの作品のみ。蓬春の心を動かす何かが、この埴輪に宿っていたのでしょうか。
もちろん、常設展示にはいつもの美術品もあります。華やかな金屏風をはじめ、令和改元にちなんだ「おめでたい絵」や、田中一村の特別展示、そして若冲室では珍しく2点の作品が展示されています。
台風19号の影響で箱根登山電車は一部が運休していますが、代行バスが運転中です。公共交通機関利用の方も、ご心配なく。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年12月4日 ]