〈対〉の表現に着目し、各幅・各隻の連続性や独立性、対比の面白さなどを紹介する企画展。会場には絵画を中心に工芸も含め、計37点が並びます。
まずは二幅対。双幅(そうふく)ともよばれます。《梟鶏図》は、梟(ふくろう)と鶏(にわとり)の対幅。夜に活動する梟と、朝を告げる鶏という事で、まず時間が〈対〉に。さらに、湾曲した松と直線的な屋根、目つきの違いなど、各所で〈対〉が表現されています。京狩野2代の狩野山雪による作品です。
続いて一双の屏風。強豪同士の戦いを「竜虎相搏つ(あいうつ)」と言うように、龍と虎は〈対〉の定番です。もとは、ともに天の四方を司る霊獣。東が青龍、西が白虎で、相対しています(ちなみに南は朱雀、北は玄武)。《龍虎図屏風》は室町時代、雪村周継の作品です。
展覧会のメインビジュアルは《吉野龍田図屏風》。右隻が桜、左隻は楓なので、もちろん季節は春と秋。場所は吉野と龍田。日本美術ではお約束といえる構成です。枝の各所には、桜と紅葉を詠んだ古歌がかかっています。
〈対〉の表現は、工芸にも見られます。《恵比寿大黒図縁頭》は、縁金具には鯛と釣竿、頭には打出の小槌と鼠が表現されている事から、主人公が分かります。七福神のうち、恵比寿と大黒はしばしば〈対〉で表現されます。
〈対〉は2つのペアだけにとどまらず、3つ、4つ、5つの表現もあります。《馬図》は、毛色が異なる馬を、春夏秋の各幅に配しました。中腹に高い山、左右は樹木と、構図も安定しています。原派の祖、原在中の作品です。
〈対〉の作品は単独でも観賞にたえるものがあるため、分割されて伝わる事も。会場冒頭の《仙女図 》も、現在は東京国立博物館と根津美術館の所蔵です。あわせて展示されるのは、なんと60数年ぶりです。
対幅は良く目にするスタイルなだけに、展覧会のテーマになりやすいかと思いきや、あまり先例は無いようで、確認できたのは1995年に大和文華館で開催された「『対幅』と所蔵名品展」が最後です。実に四半世紀ぶりの展覧会となります。
ホール奥の展示室3も展示替えされ、今までの優しい仏さまから、増長天、愛染明王、不動明王という怖い仏さまになりました。根津美術館には何度も行っているというツウの方も、お見逃しなく。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年1月8日 ]