例年この時期に開催されている「目黒区美術館コレクション展」。今回は2章構成で、館蔵品を紹介していきます。
まず第1章は「諏訪直樹 vs 川村清雄」。かたや日本美術にインスパイアされた現代美術家、もう一人は明治の開国期から活躍した洋画家。活動時期は全く異なりますが、それぞれが境界を超えて活動しました。
諏訪直樹(1954-1990)は、三重県四日市市生まれ。1977年にBゼミ Schooling Systemを修了し、個展でデビュー。額縁の枠から飛び出して続いていく《無限連鎖する絵画 Part2 No.14~30》は、まさに境を超えた表現です。
近年、再評価が進む1980年代の美術においても、諏訪は中心的な作家のひとりとされますが、不幸にも水難事故のため若くして死去。昨年から来年にかけて「諏訪直樹 没後30年 連鎖企画」として、宇都宮美術館、三重県立美術館、千葉市美術館でも諏訪の特集展示が開催されます。
川村清雄(1852-1934)は幕末に旗本の家に生まれ、明治4年に渡米(後に欧州へ)。西洋由来の油彩をいち早く日本に持ち込み、日本における絵画表現において、新たな時代を切り拓きました。
扁額をイメージさせる横長だったり、床の間に相応しい縦長だったりと、日本の暮らしに相応しい洋画を目指した川村。この後、日本における洋画は、黒田清輝の一派が主流になるため、川村の系譜が大きく育つ事はありませんでしたが、その創造性は光ります。
第2章は「パンリアルの挑戦」。パンリアル美術協会は、京都市立絵画専門学校(現・京都市立芸術大学)日本画科の卒業生が中心になって、1949年に結成されたグループ。関東での知名度はあまり高くないかもしれませんが、伝統的な京画壇の中心地から飛び出した先鋭集団です。
戦争の惨禍を経て、社会は新しい時代へ。メンバーは、膠など伝統的な画材を用いながらも新しい表現を志向して「膠彩(こうさい)表現」を標榜。後に、より先鋭的な創作に発展していきます。
星野眞吾(1923-1997)は、パンリアル美術協会の中心的な人物です。父の死を機に、存在としての肉体に対する思いを強め、紙に自らの身体を写す「人拓」で作品を制作しました。
独特の質感を持つ《鳥たちの壁A》は、下村良之助(1923-1998)の作品。紙粘土を画面に盛り上げてレリーフ状にし、化石のような表情をつくっています。下村は舞台美術、陶器、挿絵など、多方面で活躍しました。
1・2章あわせて8名の作家、それぞれアプローチは異なりますが、従来の表現の枠を突破しようとする想いは強く響いてきます。
会場では同時に「山下新太郎のファミリーポートレート」も開催中。山下新太郎(1881-1966)は明治から戦後まで活躍した洋画家。フランスに留学してルノワールに傾倒、二科会や一水会の設立にも尽力しました。
山下の三女である渡邊峯子氏から寄贈を受けた作品。生まれたばかりから嫁いだ後まで描かれた峯子氏の肖像からは、山下の深い愛情を感じます。
美術館では峯子氏へのインタビューから作品解説を作成。お手持ちのスマートフォンで、音声ガイドもお楽しみいただけます(イヤホンなどをご利用下さい)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年2月18日 ]