19世紀半ばのイギリスを席巻したラファエロ前派。バーン=ジョーンズはその後期に位置付けられる美術家です。
実は日本でのバーン=ジョーンズの単独展は、今回が初めて。
1987年には伊勢丹美術館(当時)などで「バーン=ジョーンズと後期ラファエル前派展」が開催されましたが、これも他の作家も含む展覧会。今回は、正真正銘のバーン=ジョーンズ尽くしです。
第3章 聖ゲオルギウス ─ 龍退治と王女サブラ救出下の動画でご紹介する《運命の車輪》は、バーン=ジョーンズの傑作として名高い作品です。
左に女神、男性は上から奴隷・王・詩人。どんな身分でも栄枯盛衰のサイクルからは逃れられないことを示しています。
裸体の男性の表現を見て、何かお気づきでしょうか。そう、ミケランジェロの作品に似ています。
実はバーン=ジョーンズは、大のミケランジェロ好き。ミケランジェロの天井画があるシスティーナ礼拝堂では、一番高価なオペラグラスを買って仰向けになって眺め、研究に没頭したそうです。
《運命の車輪》連作が数多く出展されているのも本展の特徴。下の動画はピグマリオンの連作です。
理想の女性を彫像として作った、彫刻家のピグマリオン。ピグマリオンは像に恋焦がれ、彫像にはウェヌス(ビーナス)によって命が吹き込まれ、ピグマリオンは念願かなって彼女と結婚する、という有名なギリシャ神話です。
4枚目の《成就》は念願がかなったシーン。他の画家は二人が大きく抱擁するシーンなどを描いていますが、こちらは控えめ。バーン=ジョーンズは大げさ態度は好まなかったといいます。
ピグマリオンの連作「眠り姫」を題材にした連作も、魅力的な作品です。
動画でご紹介したのは、グワッシュとチョークによる眠れる女性の作品。動画は1室しか撮影しませんでしたが、この隣の部屋には126×237cmの油彩の大作《眠り姫》が展示されています。
「眠り姫」の連作バーン=ジョーンズが活躍した時代は、ちょうどヴィクトリア女王の時代。大英帝国が世界中を席巻していた時代です。
同じ英国人の建築家、ジョサイア・コンドルが三菱一号館を設計した1894年も、バーン=ジョーンズが准男爵となった年。
美術館と作品の雰囲気があまりにもマッチしている理由は、こんなところにあるのかもしれません。(取材:2012年6月22日)