官能的・退廃的な作品は、日本でも人気が高いクリムト。本展は、
愛知県美術館蔵の《人生は戦いなり(黄金の騎士)》を中心に、クリムトが設立した分離派やその周辺の作品、ウィーン工房の作品、そしてクリムト作品にも見られるジャポニスム関連の資料などで、クリムトの画業とその時代を振り返ります。
会場展覧会は「闘いへのプレリュード」「黄金の騎士をめぐる物語」「勝利のノクターン」の3章構成。ほぼ年代順に並びます。
序盤では、クリムトがウィーン工芸美術学校時代に描いたデッサンなどが紹介されます。卓越した画力は学生時代の作品からも明らかですが、次第にクリムトは既存の芸術の枠組みに反発するようになり、1897年に「分離派」を旗揚げします。
学生時代のデッサンや、フェルメール風の人物画など原寸大写真パネルではあるものの、展覧会の見もののひとつがウィーン大学大講堂の天井画です。
依頼されて描いた「哲学」「医学」「法学」の3点。文明や科学の合理性を否定し、かつ官能的すぎる表現は大論争になり、結局、大学には収められませんでした。
原画は焼失しており、残された写真から作られた縦4.3メートルの原寸大パネルは、モノクロでも相当な迫力。確かに、これがクリムトならではの極彩色だったら…と思うと、論争になるのも頷けます。
スキャンダルとなったウィーン大学大講堂の天井画(原寸大写真パネル)クリムトが設立した分離派は「総合芸術」を推進しましたが、その思想を消費市場に展開したのがウィーン工房です。建築からインテリア、家具、照明、食器など、生活に関連するあらゆるものを一貫したスタイルでデザインしました。
クリムトはウィーン工房と共同で、実業家ストックレーの邸宅の食堂装飾を手がけています。細長い食堂の壁面を飾る絵画の下絵を、クリムトが制作。ウィーン工房の職人がモザイク画に仕上げました。会場には原寸大写真パネルが展示され、食堂の雰囲気を再現しています。
ウィーン工房の作品と、ストックレー邸の食堂装飾トリビア的に付け加えると、クリムトはアカデミック芸術を嫌って分離派を旗揚げしましたが、アカデミズムに憧れたものの受験に失敗して画家の道を断念したのがアドルフ・ヒトラーです。実はご紹介したウィーン大学大講堂の天井画が焼失したのは、大戦末期の1945年、敗走するナチスが放った火が原因です。
宇都宮美術館は1997(平成9)年に開館。うつのみや文化の森の中にある、緑豊かな美術館です。開館15周年の改修が終わり、2012年3月にリニューアルオープンしたばかり。マグリット、シャガール、カンディンスキーから黒田清輝、浅井忠、松本竣介など、内外の名作を開放感にあふれる展示室で楽しむことができます。
実は都心からも意外と近く、上野から宇都宮まで在来線なら1890円で1時間半前後。宇都宮の魅力は、餃子だけではありません。(取材:2013年5月2日)
宇都宮美術館