「幕末・明治 生活を彩る木版画」からスタートする本展。時代順の4章構成です。
“日本の木版画”としてすぐに思い浮かぶのは、やはり浮世絵でしょう。絵師・彫師・摺師の協業で作られる浮世絵は、江戸時代の町人文化の繁栄とともに大きく発展しました。
浮世絵がそうであったように、かつて日本の木版画は、庶民にとって身近な存在でした。この章では団扇絵やカルタ、双六など、暮らしの中に息づいていた木版画も紹介されています。
第1章「幕末・明治 生活を彩る木版画」。冒頭の壁面には美しい千代紙が第2章は「大正から昭和 ─ 木版画の復活」。維新後の西洋化で一時は衰退した日本の木版画ですが、大正時代から昭和初期にかけて再び注目を集めるようになります。
版の制作から印刷まで作家自身が手がける「創作版画」。長谷川潔や恩地孝四郎らは版画技法の中で自らの表現を追及し、芸術としての木版画を目指しました。
一方、伝統的な分業の手法を取りつつも、新しい時代に相応しい木版画として作られたのが「新版画」。
巡回展で注目が高まっている“昭和の広重”こと川瀬巴水のほか、橋口五葉の美人画などが、多くの支持を集めました。
第2章「大正から昭和 ─ 木版画の復活」版画は洋画や日本画に比べると一段低い芸術として扱われていた事もありましたが、海外で評価されたことを契機に飛躍の時を迎えます。第3章は「1950年代以降 ─ 国際的な舞台へ」です。
1951年に斎藤清がサンパウロ・ビエンナーレで日本人賞を受賞。棟方志功も1955年に同ビエンナーレで版画分年最優秀賞、翌年にはヴェネチア・ビエンナーレで国際版画大賞を受賞します。
大規模な国際展覧会で、その価値が認められた日本の木版画。国内でも公募展や展覧会が開催されるようになり、美術の枠組みの中でその地位は揺るぎないものとなりました。
第3章「1950年代以降 ─ 国際的な舞台へ」第4章は「現代 ─ 新たな木版画の表現へ」。ここでは現在活躍中の4名として吉田亜世美、風間サチコ、桐月沙樹、湯浅克俊の作品を紹介しています。
吉田亜世美は、自然環境が変わった500年後の地球をテーマにした《YEDOENSIS-divine》を出展。ジャングルジムや砂場に、木版画で摺られた6万枚の桜の紙片、映像を使ったインスタレーションです。
社会性に富む作品を発表している風間サチコ。《噫!怒濤の閉塞艦》は181cm×418cmの大作で、画面左から右に向かって原子力の惨禍を描いています。
第4章「現代 ─ 新たな木版画の表現へ」「これも木版画?」と驚くような作品もあり、豊かなバリエーションも楽しめる展覧会。2014年現在で3,300点余の版画コレクション(うち約1,600点が日本の木版画)を所蔵する、
横浜美術館ならではの企画展です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年2月28日 ]※会期中、一部展示替えがあります。