展覧会はプロローグとエピローグを挟んで8章構成。吉原の粋 / 江戸の盛り場 / 江戸娘の闊達さ / 歌舞伎への熱狂と団十郎贔屓 / 江戸っ子の好奇心 / 愛しき日常と子どものパラダイス / 花を愛でる人々 / 富士の絶景、という流れです。
各章の冒頭には、来日した外国人たちの旅行記や江戸時代の狂歌・随筆の一節を紹介。その言葉をきっかけにして、浮世絵が描いてきた江戸の美意識や文化を感じてもらおうという趣向です。
会場江戸随一の繁華街が吉原。幕府公認の遊郭で、独特の習慣と自治権を持っていました。
《積物前の遊女》は三人の遊女(それぞれ隣に振袖新造を従えています)を描いた、喜多川歌麿の作品です。
金払いが良い粋な通人が最上の客とされた吉原。最先端の流行を身にまとい、美貌と機知を兼ね備えた遊女は、一般庶民にとっては高嶺の花でした。
第1章「吉原の粋」と、喜多川歌麿《積物前の遊女》身近な娯楽として圧倒的な人気を誇ったのが、歌舞伎です。浮世絵でも役者絵は人気のジャンルでした。
会場には歌舞伎を演じる役者を描いた浮世絵はもちろん、人物を描かずに衣装と小道具だけで「暫」を表現した絵や、役者の絵が貼られた状態で現存している団扇など、珍しい資料も展示。
傑作なのが《八代目市川団十郎の死絵》。自害した八代目団十郎を追善する「死絵」(しにえ)で、釈迦涅槃図に想を得たものですが、なにやらガリバー旅行記風。よく見ると、女性に交じってネコも悲しんでいます。
第2章「歌舞伎への熱狂と団十郎贔屓」と、《八代目市川団十郎の死絵》最後にご紹介するのは、重要美術品の喜多川歌麿《納涼美人図》、千葉市美術館自慢の名品のひとつです。
新潟の旧家の七代目が江戸に旅した際に、歌麿に描いてもらったもの。筆の跡までわかるような保存状態の良さも特筆されます。
襟を開いて足をくずした、しどけない姿の美人。撫子が描かれた団扇、品のある顔立ちと、歌麿最盛期の高い画力が際立ちます。
喜多川歌麿《納涼美人図》(重要美術品)一度に見られる点数は某浮世絵展よりも多く、作品1点1点には詳細な解説が付いているので、時間をとってたっぷり楽しめる展覧会です。
展覧会の図録も団十郎の解説あり、吉原のエピソードありと、江戸文化の資料としても使えそうな充実ぶりです。
会期中に展示替えがありますので、お目当ての作品がある方は
公式サイトの出品リストでご確認ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年1月28日 ]