青森県立美術館、
国立国際美術館、
東京都現代美術館、
京都国立近代美術館、
奈良県立美術館…国内はもとより、海外でもアムステルダム市立美術館、ゲント現代美術館、ポンピドゥ・センター(パリ)、ニューヨーク近代美術館など、実に多くの美術館で作品を見ることができる工藤哲巳。
近年はフランスやアメリカでも大規模な回顧展が開催されるなど、没後20年を超えてさらにその活動に注目が高まっています。
ただ、工藤はパリの生活が長かったこともあり、作品を目にする機会に比べて、活動の全容を紹介する展覧会は少なかったのも事実。特に東京では今回が初めての大回顧展となります。
会場工藤の作品は、一言でいえば挑発的。グロテスクな作品も多く、一見するだけで拒否感を覚える人もいるかもしれません。
ただ、実はそれも工藤の狙いどおりです。作品は「コミュニケーションのだし」と言う工藤は、自らの作品を見せることで鑑賞者の反応や応答を引き出し、作家の世界観との交流を促そうとしているのです。
挑発的な作品の数々本展で約半世紀ぶりに展示されるのが、《インポ分布図とその飽和部分に於ける保護ドームの発生》。1962年の第14回読売アンデパンダン展に出品され、赤瀬川原平は「最大傑作」と賞賛しました。
出品料さえ払えば、誰でも参加できた読売アンデパンダン展。作品が大型化する中で、出品料が"1点いくら"から"壁面1mいくら"に変わったことを逆手にとり、高い出品料を払うことで展示室全体を合法的に占有しました。
男根状のオブジェの中にコッペパンがあったり、男性を侮蔑する「インポ(性的不能)」をタイトルにつけたりと、工藤ならではの暴れっぷりですが、実は用意周到に準備された作品。会場には構想段階のスケッチやメモも紹介されています。
工藤哲巳《インポ分布図とその飽和部分に於ける保護ドームの発生》と、構想段階のスケッチやメモ鳥籠の作品は、工藤のトレードマーク的な存在です。会場の一角には、1979年に集中的に制作された鳥籠の作品が並ぶコーナーもあります。
アルコール中毒が進行し、精神的にも肉体的にも追いつめられていた工藤。鳥籠の中の人は、籠から抜ける事ができず、運命に翻弄されているかのようです。
鳥籠の作品が並ぶ工藤はアルコール中毒の治療のため、1980年に一時入院。回復した後、80年代中ごろからはパリと日本を半年づつの生活になります。
1987年には自らの母校である東京藝術大学の教授に就任しますが、既に病魔は身体を蝕んでいました。
展覧会の最後の作品は《前衛芸術家の魂》。自らの死が近いことを悟っていたのでしょうか。喉頭癌のために1990年に死去、まだ55歳の若さでした。
圧倒的なパワーで時代を駆け抜けた工藤哲巳。会場には200点を超える作品・資料がずらりと並びます。ネットで話題の
「自立する図録」も含めてお楽しみください。
国立国際美術館から始まった本展。東京展の後は、2014年4月12日(土)~6月8日(日)に
青森県立美術館に巡回します。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年2月3日 ]