北三井家十代・高棟夫人の苞子(もとこ)、十一代・高公夫人の鋹子(としこ)(1901~1976)、高公の一人娘・浅野久子氏(1933年~)、伊皿子三井家九代・高長(たかひさ)夫人の興子(おきこ)(1900~1980)。今年も、三井家の四人の女性が大切にしてきたひな人形・ひな道具が一堂に紹介されます。
今年の構成はちょっとユニーク。いつもは国宝の茶碗などが展示されていることが多い展示室1・2で、最初からひな人形・ひな道具が展示されます。「初めての試みなので少し不安なのです…」(担当学芸員の小林祐子さん)との事ですが、なかなか良い雰囲気。緋毛氈が敷かれた独立ケースに、一点一点のひな人形・ひな道具が映えます。
いつもと違う展示室1・2その豪華さで目をひくのが、展示室4の奥にある浅野久子氏のひな段飾りです。
浅野久子氏は北三井家十一代・高公の子で、一人娘だったこともあり人形も道具も極めて贅沢。「丸平(まるへい)」で知られる京都の丸平大木人形店・五世大木平藏による注文制作で、その価格は「左側半分で家一軒分ぐらい」というから驚きです。
小さなトリビアも、ひとつご案内しましょう。四人のひな人形・ひな道具は「巴(ともえ)印」「小蝶(こちょう)印」など雅びやかな名前がついていますが、これは人形や道具を収める箱に書かれた符牒(ふちょう)。蔵に収めた時に誰のものか分かるように書かれたものであり、これらの印が人形や道具に付いているわけではありません。
浅野久子氏旧蔵品の、永印のひな人形・ひな道具展示室5は、特別展示「三井家の人形 彩々(いろいろ)」。ここでは松阪三井家九代・高達(たかみち)の四男・高宣(たかのり)(1933~2002)の初節句であつらえられた五月人形などが紹介されています。
《御所人形 神輿》も、五世大木平藏に特別注文したもの。人形はそれぞれ20cm前後というやや大振りのサイズで、片足立ちの21人が、約2kgの神輿をバランス良く担いでいます。
五月人形などの展示もあわせて展示室6では、南三井家十代・高陽(たかはる)(1900~1983)が収集した「手彫切手」を紹介。切手収集の世界では極めて有名な“三井高陽コレクション”から、今回は日本最初の切手4種が貼られた書状など、手彫りの銅板エッチングで印刷された数々の切手が展示されました。
また、展示室7では特集展示「宴(うたげ)のうつわ」と題し、三井家の宴席などで使用されたうつわも紹介されています。
展示室6と展示室7本展が2013年度最後の展覧会となる
三井記念美術館、2014年度のスケジュールも発表されました。
来年度も展覧会は5本。足利将軍家の至宝を展観する「特別展 東山御物の美」(7月24日~9月21日)、会社員の夫妻が40年に渡ってコツコツと蒐集した小ぶりのカップを紹介する「デミタスコスモス」(2015年2月7日~4月5日)など、注目の展覧会が目白押しですが、中でもイチオシは次回展「超絶技巧!明治工芸の粋 ― 村田コレクション一挙公開 ―」(4月19日~7月13日)。あまりにもリアルすぎる安藤緑山の牙彫(象牙の彫刻)など、選りすぐりの名品が揃います。
おそらく、当コーナーでもすべて紹介する予定です。お楽しみに。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年2月6日 ]