毎年、この時期には桜をはじめとする花をテーマにした展覧会を開催している
山種美術館。今年は富士山の世界文化遺産登録を記念し、富士山と桜、そして牡丹など清々しい春の花を描いた作品も並ぶ、一層華やかな特別展となりました。
会場入り口から第一章は「富士山」。富士山は昔から絵画で表現されていますが、中世以降には多くの名所絵に描かれるようになりました。
《富士八景図》(静岡県立美術館)は式部輝忠が絵を、建仁寺の禅僧・常庵龍崇が賛を手掛けたもの。第四幅には「日本に生まれて富士を見ないのは人では無い」と記されています。
明治以降の富士山の絵画は、作家の個性がさらに際立つようになります。
真っ赤な小松均《赤富士図》は、まるでキラウエア火山のよう。逆に川崎春彦《霽るる》は濃い藍色で、嵐を思わせる猛々しい富士です(いずれも山種美術館)。
第一章「富士山」続いて第二章は「花の宴」。桜をはじめ、春爛漫の花々を題材にした作品です。
京都・醍醐寺三宝院前のしだれ桜を華やかに描いた、奥村土牛《醍醐》。改めて近くでじっくりと観ると、木の根本に落ちた桜の花びらは、平面的に塗られたものと立体的な技法の両方が使われており、また樹に咲きほこるふわっとした花びらの表現にも腐心していることが分かります。
第二章「花の宴」小さな展示室(第2展示室)で来館者の目を惹きつけていたのが、福田平八郎による《牡丹》(3/11~4/13展示、山種美術館)です。
靄の中から滲み出るような牡丹の花は、裏彩色(画面である絹本の裏面から色を塗る手法)も使って描かれたもの。華麗な牡丹に潜む妖しい本質が、じっとりと漂ってくるようです。
福田平八郎《牡丹》春を迎えるにふさわしく、暖かな雰囲気に満ちた展覧会。会期は5月11日までですが、前後期で一部の作品が展示替えされます(前期は4月13日まで、後期は4月15日から。浮世絵は3期に分けての展示替え)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年3月11日 ]