ぐっと拡大したり、遠くに離れたり、角度を変えたり…。江戸時代の絵師らは、新しい技術によって手に入れた知見を、さまざまな形で表現していきました。
展覧会の目玉のひとつが、秋田蘭画の創始者のひとり、小田野直武(おだのなおたけ)による《不忍池図》(重要文化財)です。秋田蘭画は伝統的な日本画の画材を使いながらも、西洋画の影響を受けた構図・画題で描かれた絵画で、ごく短い期間のみ久保田潘(秋田藩)で描かれました。強調された遠近法で、何となく落ち着きが悪いように感じます(展示は4/21まで)。
会場入口から館の吹き抜け部には体験できるコーナーは、子ども連れでも楽しめそうです。
壁面の穴から覗けるのは、錦絵を切り取り、組み立てて楽しんだ「立版古(たてばんこ)」。台上の歪んだ絵は「鞘絵(さやえ)」で、刀の塗り鞘などを立てて湾曲した表面に写すことで、正常な形を見ることができます。
吹き抜け部には体験コーナーも16世紀末にオランダで発明された顕微鏡が日本に流入したのは、18世紀半ば。江戸時代後期には和製の顕微鏡も制作されました。
顕微鏡で見た雪の結晶は、今まで知らなかった驚きの世界でした。幾何学的な文様は人々の心をとらえ、錦絵や工芸品に取り入れられました。
第3章「<顕微鏡>で覗くミクロの世界」博物学も、西洋から入ってきた新しい知識です。動植物の姿をあくまでも忠実に写し取った博物画は、粉本を踏襲したそれまでの花鳥画とは全く異なります。
「美しいものを描く」行為とは対局にある博物画ですが、冷徹な視線で描かれた作品からは、逆に研ぎ澄まされた美が漂ってくるようです。
第4章「<博物学>で観察する」200年前にも実現していた、テクノロジーとアートのコラボレーション。とてつもなく長い望遠鏡や、凸レンズがついた「反射式覗き眼鏡」など実機も含め、幅広いジャンルの展示作品でお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年3月28日 ]