江戸時代の琳派といえば、近年高い人気を誇っているのは酒井抱一。芳中は抱一とほぼ同時期に大坂(今の大阪)で琳派風の作品を描いていましたが、残念ながら知名度では劣っているかもしれません。
芳中を取り上げた展覧会も、京都の
細見美術館で2003年に開かれた事はありますが、関東圏では初めて。会場の
千葉市美術館では、尾形光琳から芳中に至る琳派の画家や、当時の大坂画壇の作品もあわせて紹介していきます。
会場入口から。第1章は「芳中が慕った光琳」京都で生まれ、大坂で活躍した芳中ですが、生まれた年も含めてその来歴ははっきりしません。南画風の山水画や指頭画(しとうが:筆ではなく指や爪などを使って描いた絵画)を描いていましたが、尾形光琳の画に傾倒。"たらし込み"を駆使した、琳派風の作品を手掛けるようになりました。
その作品は、穏やかでほんわかした趣き。団子のような白梅、口が半開きで喋りだしそうな鳥など、ユーモラスで温かい表現です。
中村芳中《白梅小禽図屏風》 / 中村芳中《白梅図》《許由巣父・蝦蟇鉄拐図屏風》は、現在知られる芳中の作品で最大のものです。人物の描写は、曽我蕭白を思わせるアクの強さ。人の着衣、牛・蝦蟇(がま)の体などは、得意の"たらし込み"です。
乾かないうちに他の色を垂らし、にじみの効果を生かす"たらし込み"。琳派の絵師が数多く用いた技法ですが、芳中は特にこの技法を好みました。中には"たらし込み"が目的になっているような作品もあります。
中村芳中《許由巣父・蝦蟇鉄拐図屏風》芳中の作品で特に人気が高いのが、『光琳画譜』に収められている仔犬。ミュージアムショップにも、この仔犬をモチーフにしたグッズが、数多く並んでいます。
"光琳"と名がつく光琳画譜ですが、中身はすべて芳中の作品です。芳中はこの版本で、自らが琳派に連なる画家である事をアピールしたのかもしれません。
また、芳中は俳諧にも親しんでいました。会場には絵入りの俳書や、俳人の句が載った刷り物類も展示されています。
第4章「芳中と版本」会期中には大幅な展示替えが行われる本展(前期4/8~4/20、後期4/22~5/11)。展覧会チケット(有料)半券を提示すると、会期中2回目以降の観覧料が半額になるリピーター割引も実施中です。
琳派では傍流のような位置づけの芳中ですが、大らかで味があるその絵は、もっと注目されてもいいはず。本展は巡回しますが、関東では
千葉市美術館のみです。
巡回展は2014年5月24日(土)~6月29日(日)に
細見美術館、2014年9月26日(金)~11月3日(月・祝)に
岡山県立美術館です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年4月10日 ]