湿地に群生する燕子花(かきつばた)と、藤棚から落ちるようにしだれ咲く藤。咲き方はだいぶ異なりますが、ともに紫色の花でこの季節を彩ってくれます。
庭園にあるカキツバタと藤棚も見ごろを迎える
根津美術館ですが、実は2009年に現在の建物に改築されてから、燕子花図と藤花図が並べて展示されるのは初めて。久しぶりの競演となります。
会場入口から。展示室は屏風が多く、華やかな雰囲気ですまずは国宝《燕子花図屏風》から。
根津美術館だけでなく日本美術史を通じても頂点の一つに数えられる、逸品中の逸品です。
呉服商の家に生まれた事もあって、デザイナーとしての才能にも恵まれていた尾形光琳。光琳が40歳代で描いたこの屏風も、花をリズミカルに配置した意匠性の高さがよく指摘されます。
藤花図との比較で言うと、たっぷりとした絵具の使い方が特徴的です。緑の葉も藍色の花弁も、背景の金地が全く見えない程に塗られています。
ただその一方で、単なるベタ塗りでは無い事にもご注目を。藍色は花弁によって差があり、花のふっくらとした立体感も意識しています。
国宝《燕子花図屏風》尾形光琳筆一方の、円山応挙による重要文化財《藤花図屏風》。燕子花図の約70年後に、同じ京都で描かれました。
金地の背景に植物だけを描いた構成は燕子花図と同様ですが、枝や幹は金地が透けており、即興的な趣き。一筆で濃淡を表現する「付立て(つけたて)」と呼ばれる技法です。
細やかな花の描写は、写生の鬼だった応挙ならでは。微妙に色を塗り重ねて、一つ一つは繊細ながら、まとまるとボリューム感がある藤の花を描きだしました。
重要文化財《藤花図屛風》円山応挙筆展示室2では、応挙にはじまる円山派、四条派の作品を紹介。一番最後には、重要美術品の《花鳥図襖》も展示されています。
円山派の山口素絢と、四条派の松村景文の合作。「円山四条派」とひとくくりにされる事も多い両派ですが、比べて見るとかなりその表現には差がある事も分かります。
展示室2は、円山派・四条派の作品取材に伺ったのは、会期初日の4月19日。庭園に足を延ばすと、藤棚は3分咲き、カキツバタは蕾が大きく膨らんで今にも咲きそうでした。
この時期ならではのお楽しみ。会期最終週は午後7時までの夜間開館も実施されます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年4月19日 ]