出光コレクションから鉄斎作品約70件を一堂に集めた本展。出光美術館ファンの方は、2004年の「没後八十年 最後の文人 鉄斎 ― 富士山から蓬莱山へ ―」展を覚えている方もいるかもしれません。鉄斎だけにスポットを当てた展覧会は、出光美術館ではそれ以来となります。
展覧会の構成は以下。特集コーナー以外は、ほぼ年代順です。
1章 若き日、鉄斎の眼差し ─ 学ぶに如かず
2章 清風への想い ─ 心源をあらう
3章 好古趣味 ─ 先人への憧れと結縁
4章 いざ、理想郷へ
5章 奇跡の画業 ─ 自在なる境地へ
<特集> 扇面を愛す
人物画、風景画、仏画、戯画など画業は多彩。会場中盤の《口出蓬莱図》は口の中から神山を出す仙術を描いたユニークな作品です。
会場で目をひく大画面は《放牛桃林図・太平有象図》。6曲1双の屏風をあえて完全に広げ、L字型に配置しました。牛は田園における太平の象徴。ここでは屏風の間に立ってお楽しみください。
群青や緑青の顔料を使って描いた着色山水画「青緑(せいりょく)山水」。山の輪郭や皴に金彩を使うものは金碧山水画ともいわれます。
世俗から離れ、山奥に居を構える隠遁生活を望んでいた古代中国の文人たち。幕末の文人画家にもその考えは広まり、鉄斎も晩年には青緑山水を数多く描きました。
老境に入っても衰えを知らなかった、鉄斎の画業。80歳代で独特の瀟洒な画風を完成させました。
最晩年の大作が、88歳で描いた《蓬莱仙境図》。山々は抽象画のような豪快さの一方で、背後に鹿が控える仙人、空を舞う二羽の鶴はきっちりと描写。メリハリがついた構成です。
晩年まで展覧会を開催するなど精力的に活躍していましたが、1924(大正13)年、持病だった胆石症で死去。文人としての道を追及しつづけた満88歳の人生でした。
誇り高い文人画家だった鉄斎は「儂(わし)の画を観るなら、まずは賛文から読んでくれ」と語っていましたが、何ものにもとらわれない自由で闊達な画業は、賛が読めなくても十分に魅力的です。
巡回の予定はなく、出光美術館だけでの開催です。お見逃しなく。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年6月18日 ]■出光美術館 に関するツイート