展覧会サブタイトルにあるように、多方面で活躍したジョージ・ネルソン。製品デザインのみならず建築・インテリア・グラフィック・展覧会とどんな仕事でも引き受け、ハーマンミラー社のデザインディレクターとしてはイームズ夫妻(チャールズ&レイ・イームズ)やアレキサンダー・ジラードらを見出す慧眼の持ち主でした。
会場は1階のエントランスホールから。階段を上がるとネルソンの代名詞ともいえる《マシュマロ・ソファ》が登場します。ネルソン事務所のアービング・ハーパーがデザインし、円盤状クッションを大量生産してソファに用いるアイディア。現在では非常に高く評価されていますが、発売当時はコスト・販売数ともに期待外れでした。
続く展示室には、初期の製品やプロトタイプを含む家具がずらりと並びます。
会場展覧会の企画に30件以上も関わったネルソン。中でも冷戦下の1959年にモスクワで開催された「アメリカ博覧会」は重要な仕事です。ネルソンは巨大なフレーム構造の「ジャングルジム」を開発し、家具や玩具などアメリカの工業製品を紹介。フルシチョフとニクソンがそれぞれの国の生活水準について「キッチン論争」を繰り広げました。
会場では当時の写真や図面類とともに、原寸大フレームと1/6モデルが展示されています。
モスクワのアメリカ博覧会で用いられた《ジャングルジム》1847年から35年以上にわたって、ハワードミラー社の製品を手掛けたネルソン。ネルソンと彼の事務所は、130種以上の時計をデザインしました。
腕時計が普及してきた当時、壁掛け時計は時刻を知るツールとしてよりも、インテリアとしての要素が求められていました。ネルソンの時計は遊び心のあるデザインが特徴的。ただ、その中でも、同じムーブメントを用いて生産コストに配慮しています。
「時計」のコーナーネルソンはオフィス家具も手掛けました。1950年代に発表した《エグゼクティブオフィスグループ》では長方形のテーブルと収納家具をL字型に組み合わせたレイアウト。現在では良く見られますが、当時は極めて斬新な発想でした。
1960年代の《アクションオフィス1》では、高さが異なるデスク(立ったり座ったりする事で集中力を維持する)、閉じる事ができるロールトップデスク(やりかけの仕事をそのままの状態で帰宅し、翌日すぐに再開できる)などを提案。アルコア工業デザイン賞を受賞するなど評価されましたが、商業的な面では少し時代が早すぎたようです。
「オフィス家具」のコーナーネルソンは建物の工業化に関心を持っており、《エクスペリメンタルハウス》もその過程から発想されました。
アルミフレームと壁板からなる立方体のモジュールを組み合わせて、住む人のニーズに応じたサイズの住宅を提供するもの。多くのメディアで模型が紹介されるなど注目を集めましたが、残念ながら実現には至りませんでした。
《エクスペリメンタルハウス》デザインを文化・社会・経済など大きな枠組みの中で捉えていたジョージ・ネルソン。物事を俯瞰して見る事ができる名プロデューサーとしての眼力と、常に一歩先を見据えていた先進的な発想は、現在でも眩しく感じられます。
本展はドイツのヴィトラ・デザイン・ミュージアムの企画による国際巡回展。アジア巡回としてオーストラリア、香港に続いての開催で、日本では
目黒区美術館のみの開催です。お見逃しなく。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年8月8日 ]■ジョージ・ネルソン展 に関するツイート