ボストン美術館の浮世絵コレクションを紹介するシリーズ展。2008年の「色あざやかなり 江戸の夢」(
江戸東京博物館など)、2011年の「錦絵の黄金時代 ― 清長、歌麿、写楽」(
山種美術館など)に続き、最終回となる今回はボストン美術館とも縁が深い葛飾北斎です。
「世界で最も有名な日本人画家」といえる北斎ですが、学術的な見地からなる北斎展を初めて実施したのは、実はボストン美術館。アーネスト・フェノロサのキュレーションのもと、1892~93年に"HOKUSAI AND HIS SCHOOL"展が開催されたのが嚆矢なのです。
本展は3章構成。第1章「稀品と優品でたどる浮世絵版画70年」に、デビュー後に春朗を名乗っていた時代の作品から約110点の浮世絵版画が紹介されます。
ちょっと珍しいのが「組上絵」。紙面に描かれた部品を切り抜いて組み上げることで、立体的な風景ミニチュアがつくれるもので、江戸時代のペーパークラフトといえます。「天の岩戸」と「浅草寺雷門」の二種で、実際に組み上げたモデルも展示されています。
第1章「稀品と優品でたどる浮世絵版画70年」北斎=風景版画家というイメージを定着させたのが、「冨嶽三十六景」を中心としたシリーズ。61歳から74歳までの為一を号していた時期の作品です。
おなじ為一の時期に描かれ、風景版画と並んで評価が高い花鳥図や、画狂老人卍を号した晩年に描かれた最後の揃いもの「百人一首うばが絵とき」まで展示。あまり知られていない役者絵や、五枚続の風俗絵(北斎は続絵をほとんど作っていません)なども含め、70年に及ぶ北斎の長い画業が一覧できます。
第1章「稀品と優品でたどる浮世絵版画70年」第2章は「華麗な摺物と稀覯本」。摺物(すりもの)は特別注文で制作された非売品の版画で、大量に生産される浮世絵版画とは違い、高級な用紙と精緻な技巧が凝らされています。
ここでは摺物17件(19点)と版本7種を紹介、中でも注目はケース内で紹介されている《花の兄》。「花の兄」とは、花の中で最も早く開花する梅のこと。すなわち、春興の狂歌帖です。完本で伝わるのは、ボストン美術館が所蔵する本作のみ。北斎の挿図は、遠方に凧があがっている事から正月の風景と分かる本図と、梅の老樹が描かれた2図です。
第2章「華麗な摺物と稀稀覯本」 動画最後が《花の兄》第3章は「肉筆画と版下絵・父娘の作品」。資料性が強い北斎の作品6点とともに、展覧会最後には北斎の三女・阿栄(おえい)の作品も展示されています。
阿栄は離縁した後に北斎宅に戻り、応為(おうい)の号で版本の挿絵や肉筆画を描いた阿栄。《三曲合奏図》は美人図を得意とした応為の代表的な作品で、フェノロサによる120年前の北斎展でも出品。フェノロサはこの展覧会で最も注目される作品だとして絶賛しています。
第3章「肉筆画と版下絵・父娘の作品」ボストン美術館の浮世絵は、ほとんどが近年まで門外不出の未公開だったため、色の劣化が少ないのが特徴。確かに、今摺られたばかりのように鮮やかな色彩の浮世絵版画も楽しめます。名古屋、神戸、北九州と巡回し、最後の会場が
上野の森美術館です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年9月12日 ]