会場に入ってすぐ、壁一面に色とりどりのたくさんの糸巻が並ぶのは《プロジェクト・繕う》。ここでは観客が持ち込む布をホスト役が繕い、その完成品は壁面の糸と結ばれ、生まれたコミュニケーションが可視化されます。
細い糸なのでまだ遠目には見づらいですが、会期が進むにつれ、たくさんのカラフルな糸を通して、人とのつながりが見えてくるはずです。会期終了まで預けられる衣類や、ハンカチなどを持っていくことをお勧めします。
《プロジェクト・繕う》2009/2014年リー・ミンウェイの作品には、日々の生活の行動を改めて考えさせるものが多くあります。これらはリー・ミンウェイが幼少期に出会った禅の思想がベースになっています。
《ひろがる花園》はひときわ目を引く、色とりどりの花が並ぶ可愛らしいスペース。この花は一人一輪を自由に持ち帰ることができますが、受け取った人は来た道とは違う道で帰り、見ず知らずの人にその花を贈る、というミッションを課されます。他人に花を手渡す、とても非日常的で難しい行動ですが、ぜひ体験してみては。
会場の一角に設けられた寝室と食卓では、実際にリー・ミンウェイもしくはホストが抽選で選ばれた人と食事をともにしたり、一晩を一緒に過ごす、1対1の関係性を築くプロジェクトが行われます。
Sec.2 歩く、食べる、眠る━日常の営みを再考するリー・ミンウェイは、自身の家族との思い出や、そこから受けた影響も多く作品に投影させています。
木製の箱が並ぶスペース《布の追想》には、手作りのぬいぐるみや帽子など、布でつくられた思い出の品が入っています。これらは公募で集められたもので、どれもそれぞれにエピソードがあるものばかり。それぞれの箱の蓋の裏には、その布にまつわる思い出がつづられています。これは、リー・ミンウェイが幼いころ、お母さんの手作りの服に勇気づけられた経験から着想されました。
《布の追想》2006/2014年《プロジェクト・手紙をつづる》は、大切な人へ今まで言えなかった感謝や謝罪などを綴る体験をします。この作品はリー・ミンウェイが、亡くなった祖母へ伝えきれなかった思いを手紙にしたためた行動に由来します。書いた手紙は、封をするかしないか自分で決めて壁面に。壁面に置かれた封のされていない手紙は、読むことができます。
《プロジェクト・手紙をつづる》1998/2014年本展はリー・ミンウェイの個展ですが、その制作活動において重要なキーワードになる「関係性」「つながり」を考えるテーマ展の側面も持ち合わせています。イヴ・クライン、白隠、鈴木大拙など、リー・ミンウェイの思想に通底する作品や、アラン・カプローや小沢剛などリレーショナル・アートに関連したアーティストの作品も展示されています。
1990年代後半以降、大きな広がりを見せているリレーショナル・アートですが、参加者がいないと成り立たないため、展覧会の実現はハードルが高いもの。実際、森美術館から個展の話を持ちかけられ、リー・ミンウェイは「今までそんな勇気のあった人はいない」と答えたと言います。
「開幕の時点では、展覧会の完成度はまだ40%」とリー・ミンウェイが語るように、開幕直後の会場はまだ真っ白のキャンバスのように感じられました。展示されたものを見るだけではなく、時に手や口も動かし、考える必要がある展覧会。日々変化する展示の行きつく先はどうなるのか、楽しみです。
[ 取材・撮影・文:川田千沙 / 2014年9月19日 ]■リー・ミンウェイとその関係 に関するツイート