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    レポート
    名画を切り、名器を継ぐ -美術にみる愛蔵のかたち-
    根津美術館 | 東京都
    形を変えて、愛を込めて
    「古来から伝わる貴重な美術品」と決まり文句のように言われますが、私たちがいま目にしている美術品は、作られた当時そのままとは限りません。中には所有した人や時代の好みによって、人為的に手が加えられているものも。形を変えることで、より深い愛情が込められた品々。根津美術館でご紹介します。
    《志野茶碗 銘 もも》
    (右)国宝《瀟湘八景図 漁村夕照》牧谿筆
    重要文化財《公余探勝図》谷文晁筆
    (左から)《十二か月花鳥図 九月》尾形乾山筆 / 《十二か月花鳥図 二月》尾形乾山筆
    重要文化財《日月松鶴図屏風》
    (左から)《青磁花入 銘 鎹》龍泉窯 / 《青磁筒花入》龍泉窯 / 重要文化財《青磁輪花碗 銘 馬蝗絆》龍泉窯(展示は10/1まで)
    《大井戸茶碗 銘 須弥(別銘 十文字)》
    (左から)《赤楽茶碗 木守写》一翁作 / 《赤楽茶碗 銘 木守》長次郎作/楽 惺入補作
    「人為的に手を加えた美術品」というとイメージは良くないかもしれませんが、例えば、国宝《檜図屏風》(伝狩野永徳筆)も、元は襖絵を屏風に改装したもの。古い筆跡は「古筆」として切断されて古筆切になり、古筆切は鑑賞用に掛物(掛軸)に、あるいはアルバム状に台紙に張られて手鑑(てかがみ)にと、姿を変えて現代に伝わる美術品は枚挙に暇がありません。

    本展は「唐絵の切断から」「古筆切と手鏡」「絵巻・歌仙絵の分割」「さまざまな改装」「茶道具への愛着」の分類で、国宝4件、重要文化財35件を含む約100件を紹介する企画。展示室1では主に書画を、展示室2で工芸品を紹介します。


    会場入口から

    会場最初に展示されているのが、南宋の画僧・牧谿(もっけい)による国宝《瀟湘八景図 漁村夕照》。絵の大きさを見て考えると…そのとおり、元は巻物だったのです。

    「瀟湘八景(しょうしょうはっけい)」とは、中国山水画の伝統的な画題。室町将軍・足利義満によって八景が各図ごとに切断され、掛物に改装されたと考えられています。

    日本の水墨画に多大な影響を及ぼした牧谿。墨の濃淡を自在に操り、時が止まったかのような奥深い山々を巧みに表現しています。左下には義満の所蔵品だった事を示す「道有」の印が捺されています。


    国宝《瀟湘八景図 漁村夕照》牧谿筆

    「改変によって価値が増した美術品」なら、桃山時代の茶碗が典型的。この時代の茶碗は、あえて修理したところを目立たせるようにした作例も散見されます。

    中でも《大井戸茶碗 銘 須弥(別銘 十文字)》は驚くべき大胆さ。茶碗を十文字に切った後にもう一度継ぎ直すという豪快さで、上から見ると補修の痕がくっきりと残っています。

    切断された理由は諸説あります。ひとつは、茶碗が大きすぎたので切って詰めたというもの。さらに、この茶碗には他にも直した部分があるので、それを目立たなくするために、あえて十文字に切断して大胆に繕った、という説もあります。


    《大井戸茶碗 銘 須弥(別銘 十文字)》

    17世紀(江戸時代)の壺《信楽壺 銘 破全》は、根津美術館とは縁が深い品です。

    これを手に入れた初代・根津嘉一郎が茶会で花入れに用いると、高橋箒庵(実業家で茶人)が「完全であるのは面白みがない」と指摘。嘉一郎は出入りのものに、少し壺を欠くように言いつけましたが、勢いあまって壺はバラバラに。嘉一郎はすっかり意気消沈してしまいましたが、割れた壺を「破れ花入れ」として用いたところ茶友が絶賛。すっかり機嫌が直ったと伝わります。

    壺は長らく壊れたままでしたが、近年になって修復されて今の姿に。この姿を初代嘉一郎はどう思うでしょうか。


    《信楽壺 銘 破全》

    会期中に展示替えがありますので、お目あてがある方は公式サイトの出品リストで展示期間をご確認ください。また本展では、リピーター割引「またどうぞ券」(一般・学生とも通常料金より200円引き)も、ミュージアムショップで販売されています。

    根津美術館では来年度の展覧会スケジュールも発表。注目は4月18日(土)~5月17日(日)に開催される「尾形光琳300年忌記念特別展 燕子花と紅白梅」。恒例の国宝《燕子花図屏風》が展示される時期に、なんとMOA美術館から国宝《紅白梅図屏風》が出展。尾形光琳によるツートップが、56年ぶりに揃って展示されます。
    [ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年9月19日 ]

    TOKYO美術館 2014-2015

     

    エイ出版社
    ¥ 1,026

     
    会場
    会期
    2014年9月20日(土)~11月3日(月)
    会期終了
    開館時間
    10:00~17:00(入館は16:30まで)
    休館日
    月曜日休館 ただし10月13日(月祝)は開館、翌日休館
    住所
    東京都港区南青山6-5-1
    電話 03-3400-2536
    公式サイト http://www.nezu-muse.or.jp/
    料金
    一般1200円、学生[高校生以上]1000円
    *中学生以下は無料
    展覧会詳細 名画を切り、名器を継ぐ -美術にみる愛蔵のかたち- 詳細情報
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