「人為的に手を加えた美術品」というとイメージは良くないかもしれませんが、例えば、国宝《檜図屏風》(伝狩野永徳筆)も、元は襖絵を屏風に改装したもの。古い筆跡は「古筆」として切断されて古筆切になり、古筆切は鑑賞用に掛物(掛軸)に、あるいはアルバム状に台紙に張られて手鑑(てかがみ)にと、姿を変えて現代に伝わる美術品は枚挙に暇がありません。
本展は「唐絵の切断から」「古筆切と手鏡」「絵巻・歌仙絵の分割」「さまざまな改装」「茶道具への愛着」の分類で、国宝4件、重要文化財35件を含む約100件を紹介する企画。展示室1では主に書画を、展示室2で工芸品を紹介します。
会場入口から会場最初に展示されているのが、南宋の画僧・牧谿(もっけい)による国宝《瀟湘八景図 漁村夕照》。絵の大きさを見て考えると…そのとおり、元は巻物だったのです。
「瀟湘八景(しょうしょうはっけい)」とは、中国山水画の伝統的な画題。室町将軍・足利義満によって八景が各図ごとに切断され、掛物に改装されたと考えられています。
日本の水墨画に多大な影響を及ぼした牧谿。墨の濃淡を自在に操り、時が止まったかのような奥深い山々を巧みに表現しています。左下には義満の所蔵品だった事を示す「道有」の印が捺されています。
国宝《瀟湘八景図 漁村夕照》牧谿筆「改変によって価値が増した美術品」なら、桃山時代の茶碗が典型的。この時代の茶碗は、あえて修理したところを目立たせるようにした作例も散見されます。
中でも《大井戸茶碗 銘 須弥(別銘 十文字)》は驚くべき大胆さ。茶碗を十文字に切った後にもう一度継ぎ直すという豪快さで、上から見ると補修の痕がくっきりと残っています。
切断された理由は諸説あります。ひとつは、茶碗が大きすぎたので切って詰めたというもの。さらに、この茶碗には他にも直した部分があるので、それを目立たなくするために、あえて十文字に切断して大胆に繕った、という説もあります。
《大井戸茶碗 銘 須弥(別銘 十文字)》17世紀(江戸時代)の壺《信楽壺 銘 破全》は、根津美術館とは縁が深い品です。
これを手に入れた初代・根津嘉一郎が茶会で花入れに用いると、高橋箒庵(実業家で茶人)が「完全であるのは面白みがない」と指摘。嘉一郎は出入りのものに、少し壺を欠くように言いつけましたが、勢いあまって壺はバラバラに。嘉一郎はすっかり意気消沈してしまいましたが、割れた壺を「破れ花入れ」として用いたところ茶友が絶賛。すっかり機嫌が直ったと伝わります。
壺は長らく壊れたままでしたが、近年になって修復されて今の姿に。この姿を初代嘉一郎はどう思うでしょうか。
《信楽壺 銘 破全》会期中に展示替えがありますので、お目あてがある方は
公式サイトの出品リストで展示期間をご確認ください。また本展では、リピーター割引「またどうぞ券」(一般・学生とも通常料金より200円引き)も、ミュージアムショップで販売されています。
根津美術館では来年度の展覧会スケジュールも発表。注目は4月18日(土)~5月17日(日)に開催される「尾形光琳300年忌記念特別展 燕子花と紅白梅」。恒例の国宝《燕子花図屏風》が展示される時期に、なんとMOA美術館から国宝《紅白梅図屏風》が出展。尾形光琳によるツートップが、56年ぶりに揃って展示されます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年9月19日 ]