緑豊かな箱根の地に、華々しく開館した
岡田美術館。今年4月には、66年ぶりに発見された
喜多川歌麿の大作《深川の雪》も公開され、大きな話題を呼びました。
本展は開館一周年の記念展。日本美術院の同人や、関連する画家の作品を紹介する企画です。
4階の企画展会場入口から東京美術学校(東京藝術大学の前身)を追われた岡倉天心が1898(明治31)年に結成した美術団体・日本美術院。天心の没後、横山大観と下村観山が中心になって再興され、今もなお活発に活動を続けています。一世紀を超える歴史を持つ民間の美術団体は、世界でも類を見ません。
日本美術院に関連する作品を多数所蔵する
岡田美術館。本展では展覧会名にある横山大観・菱田春草・速水御舟をはじめ、橋本雅邦・下村観山・川合玉堂・小茂田青樹・小林古径・前田青邨・小倉遊亀ら、明治から昭和にかけて日本画を牽引した大家の作品を揃えました。
会場本展は4階での開催ですが、横山大観《霊峰一文字》だけは2階で展示。絵が描かれている画面だけでも縦約1メートル、横約9メートルという巨大な作品のため、展示にもかなりのスペースが必要です。
「富士山の画家」として知られる大観。重要文化財《生々流転》(東京国立近代美術館蔵)のように長大な図巻も描いていますが、本作は富士山の絵画としては文句なしの最大級です。
作品は文楽の舞台用に描かれたもの。これだけの大画面にも関わらず絹地に継ぎ目が無い事から、特別にこの絵のために織られた事が分かります。実はこの絵が贈られた大阪の御霊文楽座は、1926年に火災で全焼。この絵は前日に地方巡業のために持ち出されていたため無事だったという強運エピソードも残ります。
横山大観《霊峰一文字》。「古典藝術の為に 竹本津太夫君に贈る」と記されています展覧会のもうひとつの目玉が、速水御舟の《木蓮(春園麗華)》。御舟といえば重要文化財の《炎舞》(山種美術館蔵)などが知られますが、この作品も御舟が32歳の時に開いた初個展で《炎舞》とともに出展された作品です。
赤々と燃え上げる炎を描いた《炎舞》とは対照的に、《木蓮(春園麗華)》は濃淡だけで表現された墨絵。ただ、じっと見ていると紫色の花びらが浮かんでくるような印象を覚えます。
1980(昭和55)年に京都国立近代美術館で公開されていますが、展覧会での出品は実にそれ以来。このたび
岡田美術館に新たに収蔵され、34年ぶりのお目見えとなりました。
速水御舟の《木蓮(春園麗華)》。箱に残る「木蓮」の墨書は御舟による自筆開館一年を迎えてミュージアム・ショップや飲食スペースも徐々に整備が進み、箱根の新名所として益々存在感を増す
岡田美術館。本展では毎週金曜日の学芸員によるギャラリートークのほか、12月10日(水)、2015年1月21日(水)、2月18日(水)、3月25日(水)には小林忠館長によるギャラリートークも開催中。いずれも午前11時~、申込不要・参加無料(要入館料)です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年11月11日 ]※なお、喜多川歌麿「深川の雪」は現在展示されておりません