日本的な美意識の表現として、しばしば用いられる「雪月花」(せつげつか)。本展は間に「と」を挟み、少し印象を和らげたタイトルとしました。
展示されるのは、館蔵品を中心とした70点。近年三井不動産から寄贈された作品も含みます。
会場に入ると、前室でいきなり「雪松図屏風」? 実はこれは高精細複製品で、特定非営利活動法人京都文化協会とキヤノンによる「綴プロジェクト」で制作されたものです。
高精細デジタルデータを大判インクジェットプリンターで特製の和紙に印刷し、京都の伝統工芸師が金泥加工を施した「雪松図屏風」。実物では難しい方法でも展示できるのが強みで、過去にはロウソクの灯りで観せた事もあります。
本展でもロウソクのように揺らぐ照明を設置。応挙が活躍していた江戸時代に想いを馳せながらご覧下さい(高精細複製品の展示は12月25日まで)。
高精細複製品の「雪松図屏風」展示室1は工芸品から。雪・月・花の順にご紹介しましょう。
まず「雪」は《粉引茶碗 銘残雪》。口縁の周囲が白く残る平茶碗で、銅の下部にベージュ色の染みが出た景色は、「残雪」の銘に相応しい趣きがあります。
「月」は《備前徳利花入 銘雨後月》。焼く時に出来てしまった胴の丸い「抜け」を「雨後の月」に見立てて、花入れとして用いました。
「花」の《色絵桐巴紋水指》は、野々村仁清の作。桐と巴の文様を施し、落ち着いた印象の水指です。
順に《粉引茶碗 銘残雪》、《備前徳利花入 銘雨後月》、野々村仁清《色絵桐巴紋水指》見ごたえがあるのは展示室4。屏風や襖絵、軸物など大きな作品が並びます。
2015年1月4日からは国宝《雪松図屏風》がここで展示されますが、会期前半で紹介される重要文化財《日月松鶴図屏風》も見逃せない逸品です(12月25日まで)。
金地の空間に岩と流水、松と鶴が配された豪華な屏風。左隻の右上には三日月の銀板が、右隻の右上には太陽の金板が嵌められています。植物はクマザサ、タンポポなど春の草花からアシの枯れ穂まで描かれ、日月と四季の移ろいを一画面で表現しています。
重要文化財《日月松鶴図屏風》最後の展示室には、まさに「雪月花」と名付けられた《唐物竹組大茶籠(雪月花)》も。小さな茶道具と香道具40余点が竹籠に入ったセットで、北三井家8代の高福(たかよし)が仕立てました。箱書きに「月雪も花も友とて茶箱かな」とあります。
油彩のようにも見える草花図は、川端玉章の《草花図額》。明治時代の日本画です。北三井家は、和建築に絨毯を敷いて洋風生活をいち早く始めていたため、このような絵画で華やかに彩られていました。
《唐物竹組大茶籠(雪月花)》、川端玉章《草花図額》三井記念美術館は、2015年度の企画展も発表しました。
三井文庫開設50周年、
三井記念美術館開館10周年のメモリアルイヤーということもあって、2015年4月11日~6月10日と11月14日~2016年1月23日に記念特別展が開催。6月20日~8月16日の「春信一番!写楽二番!」展では、米・フィラデルフィア美術館が誇る浮世絵コレクションから厳選した春信、写楽、歌麿、北斎など150点が来日します。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年12月10日 ]■雪と月と花 雪松図 に関するツイート