第45代横綱、若乃花幹士。小兵ながらも驚異的な身体能力で豪快な技を繰り出し、後に「栃若時代」と呼ばれるライバルの栃錦との数々の死闘は、1950年代に相撲人気を一気に高めました。相撲にかける執念は「土俵の鬼」と呼ばれ、現役にも関わらず自伝的な映画が作られるなど、国民的なスターでもありました。横綱在位26場所、幕内最高優勝10回。堂々たる成績で1962年まで土俵に君臨しました。
館内引退して二子山親方となってからも、傑出した名伯楽ぶりを発揮します。二代若乃花、隆の里の両横綱をはじめ、大関二人、関脇二人、小結五人など19人もの関取を育てました。中でも実弟でもある初代貴ノ花は角界のプリンスと呼ばれ、1970年代の相撲界を多いに盛り上げました。貴ノ花の息子、つまり若乃花の甥にあたる若貴兄弟が90年代に「若貴フィーバー」を巻き起こしたことは、記憶に新しいのではないでしょうか。
驚異的な身体能力が分かる一番。相手は潮錦。ここ数年、大相撲を取りまく環境は決して順風とは言えませんが、確かに大相撲が人々の話題の中心だった時代があります。取材は展覧会初日の午前中に伺いましたが、若い方も含めて何人もの相撲ファンが訪れ、熱心に取り組み映像を見ていた姿が印象的でした。迫力のある取り組みは、いつの時代も人々の心を捉えます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2011年8月23日 ]