サンスクリットのbodhisattva(ボーディ・サットヴァ)の音写「菩提薩埵」に由来する菩薩。もとは「悟り+生けるもの」の意味です。他者にも悟りを導く存在としての菩薩は1世紀頃から広く信仰されるようになり、仏教の飛躍的な拡大につながりました。
本展は飛鳥時代から江戸時代まで、菩薩を表した彫刻や絵画を紹介する企画。如来や明王だけの作品はNGと厳しい縛りですが、充実した仏教美術コレクションを誇る
根津美術館ならではといえます。
会場入口から第1展示室と、第2展示室さまざまな種類がある菩薩。文殊菩薩と普賢菩薩は釈迦如来の両脇に控えるポピュラーな菩薩です。普賢は白象に、文殊は獅子に乗った姿でよく表されます。
地獄に堕ちた者まで救ってくれるのが、地蔵菩薩。平安時代の後期以降、身近なほとけとして信仰を集めてきました。
地蔵は物語絵にも登場します。紹介されている《矢田地蔵縁起絵巻》では、恐ろしい地獄絵とともに「毎月決まった日に矢田寺に参詣すると、地獄の責め苦から逃れられる」と説いています。
菩薩の諸相 普賢菩薩、文殊菩薩、地蔵菩薩展示室1の奥には、見ごたえがある大きな木彫の仏像が4軀。右から飛鳥時代、平安時代、鎌倉時代が2軀と、時代順の並びです。
その表現は、時代ごとに特徴が見られます。飛鳥時代は痩身の童子の姿、平安時代は浅い衣文(えもん)で穏やかな顔立ち、鎌倉時代は表情が引き締まり、衣の表現もダイナミックになってきます。
飛鳥時代、平安時代、鎌倉時代の菩薩像が並びます本展の開幕にあわせ、テーマ展である展示室3が久しぶりに展示替えされました。一人の尼僧が750年以上前に書いた全600巻の大般若経で、根津美術館はうち541巻を所有しています。
14年の歳月を費やして600巻を書写したのは、尼僧の浄阿(じょうあ)。各巻には書写日が記され、巻末には回向者の名前も列記。経巻を収めた厨子の屋根板にも、転読の費用として寄進された庄田の詳細も記されています。
2年に及ぶ厨子の修繕が終わり、ようやく公開。美術的な価値はもちろん、民俗学や女性史研究においても貴重な資料として注目を集めそうです。
展示室3の《春日若宮大般若経》と《春日厨子》取材前日には、来日したばかりのドイツ・メルケル首相も本展を訪問しました。メルケル首相を安倍首相が自ら案内。あいにくの天気でしたが庭園にも足を運び、日本が誇る伝統文化を楽しまれたそうです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年3月10日 ]■根津美術館 菩薩 に関するツイート