江戸時代初期に活躍した岩佐又兵衛(1578~1650)。いわゆる「奇想の画家」の一人で、独特の画風はのちの絵画にも大きな影響を与えました。
「山中常盤物語」は、奥州へ下った牛若丸を訪ねて都を旅立った母の常盤御前が、山中の宿で盗賊に殺され、牛若丸が仇を討つストーリー。又兵衛の絵巻は、全巻あわせると150mを超える長大な作品です。
第1室と第4室で、それぞれ6巻づつ展示されています
絵巻の最大の特徴といえるのが、凄惨な場面の描写です。
牛若丸を思って東国を目指した二人ですが、六人の賊に小袖を奪われてしまいます。常盤の黒髪を手に巻きつけ刀を突き刺す非道ぶりは、目を覆いたくなるほどです。
物語とはいえ、あまりに酷い常盤主従の最期
夢に母が出て不審に思った牛若丸。都に向かう途中で新しい墓を見つけますが、なんとそれが常盤の墓。殺されたのは前日だったのです。
仇討に燃える牛若丸は賊をおびき出し、一気に攻勢へ。血みどろの描写は、又兵衛自身の境遇(又兵衛は、信長に一族を殺された荒木村重の子です)との関連性を指摘する人もいます。
賊を倒す牛若丸
厳しい場面ばかりをご紹介しましたが、実は風俗描写も見どころのひとつ。多くの人々の仕草や表情もお楽しみください。
また、金銀を用いて細かい部分まで描きこまれた衣裳にも注目。お持ちでしたら単眼鏡(ミュージアムスコープ)もお忘れなく。
保存状態の良さも特筆されます
最後に少し長くなりますが、会場に展示された全12巻を通してご紹介いたします。あまりにも長大なため全場面が展示されているわけではありませんが、これでも迫力十分。他場面の展示は、次の機会を待ちたいと思います。
右から左にストーリーが進んでいきます
ちょうど散策に良い季節。わずか1カ月の会期ですが、自然豊かなMOA美術館で傑作を堪能してください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年5月15日 ]