国家転覆を狙う大悪党、抗争を繰り広げる侠客、色恋に狂った悪女…、会場の
太田記念美術館にはさまざまの「悪」が揃いました。
本展を担当した太田記念美術館主幹学芸員の渡邉晃さんにインタビューできましたので、まずはこちらをご覧ください。
太田記念美術館主幹学芸員の渡邉晃さん物語でしばしば表現されるのが「悪の権力者」。菅原道真を陥れた藤原時平や、赤穂浪士の吉良上野介が典型的です。
ただ、江戸時代の芝居に登場する吉良上野介は、南北朝時代の高師直に置き換えられて描かれるのが定番。そのため高師直の悪人ぶり(人妻の湯浴みを覗く好色さ)まで、吉良の悪行に加えられているのは、いささか可哀想にも思います。
第2章「権力者たち」渡邉さんが言う「善悪の狭間を行き来する」キャラクターは、会場2階で紹介されています。
元々は善人であったにも関わらず、ひどく侮辱された事から我慢の限界に達し「吉原百人切」に及んだ佐野次郎左衛門。博打で身を持ちくずし、改心したあかしに芝居をうつも気づかれず、父に刺し殺されてしまったのは、いがみの権太。
善から悪へ、悪から善へと揺れ動くパターンが共感を呼びやすいのは、誰でも心の奥に別の一面があるためかもしれません。
第5章「善と悪のはざま」どこを見渡しても悪人ばかりですが、渡邉さんに「救いようがない極悪人」をピックアップしていただきました。
民谷伊右衛門:東海道四谷怪談の登場人物で、妻のお岩に毒薬を飲ませ、戸板にくくりつけて川に流した男
立場の太平次:歌舞伎狂言の「絵本合法衢」の悪役。夫の悪事に気がついた女房も含め、次々に人を殺してゆく連続殺人鬼
一つ家の老婆:泊めて寝かせた旅人に石を落として殺し、金品を奪う浅草浅茅ヶ原の老婆。知らずに娘を殺してしまう
いずれも文句無しの、悪人度「五つ星」です。
極悪人が揃いましたちなみに、いつもは肉筆浮世絵が展示される畳のエリアは、今回は錦絵(版画)。「悪人を描いた肉筆浮世絵はあまり多くないため」との事です。これを「金持ちが注文して描かせる肉筆画」と「大衆の欲求に応じて出版する錦絵」という対比で考えるなら、「悪」は、まさに大衆が求めた存在と言えるかもしれません。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年5月31日 ]